
「アルドステロン研究の 50 年」の首題に関連し,これまで 2,3 のレビューを書いたので, なるべく重複を避けアルドステロン研究の発展史を記述してみたい。
副腎がどのような生理的機能を果たしているかについての知見が得られるようになったのは,19 世紀半ばになってからである。 この歴史的変遷の背景にはミネラロコルチコイドの存在を示唆する次のような裏面史が隠れている。
ミネラロコルチコイドの存在の示唆
1. 1933〜1945 年
この間に残されていた一つの疑問は,Rubin ら(1933)がラットを用い,次いで Kenndall(1935)がイヌを用い, 副腎を摘出しても食塩を投与すれば動物を生かしておけるという観察である。 また副腎エキス,あるいは副腎抽出化合物の筋力に対する効果と延命効果との間には関連性がみられない。 したがって結論的な証拠(たとえば,副腎静脈血中に見出される量は副腎エキスのもつミネラロコルチコイド活性を説明するに十分でなかった)を欠いていたが, コルチコステロイドには,糖質代謝に関わるコルチコステロイド活性をもつものと, 延命に関係するミネラル代謝に関わる(ミネラロコルチコステロイド活性)ものとがある; つまり二元論的な考え方が記載されていた。
また,副腎皮質エキスのミネラロコルチコイド活性は,抽出法(抽出溶媒の種類)の差により違ってくるのは当然で, 今日の知識からすると“sodium factor”,すなわちアルドステロンがどれだけ多く抽出されていたかにより差が生じたのであろう。
2. 1948 年
Deane らは,低 Na 食飼育ラットで副腎球状層の肥大,Na 食では球状層萎縮が起こることをを観察。
3 1950 年―Simpson & Tait:副腎摘出ラットの尿の分析 1)1)Simpson SA, Tait JF, Wettstein A, Neher R, Von Euw J, Reichstein T. Experientia 1953;1X:333−5.
14Na/42K 比を指標とするバイオアッセイで副腎エキス商品 Eucortone を分析し, 11−デオキシコルチコステロン(DOC)を検出できないにかかわらず高いミネラロコルチコイド活性を認め, (1)ミネラル代謝に相乗効果を与えるステロイドが含まれている? (2)新規のミネラロコルチコイド・ホルモンが含まれている? の疑問を解明するため, 1952年,ペーパークロマトグラフィー(Zaffaroni, Bush B−5 系)にてコルチゾン(CpdE)とは 異なる部分に蛍光陽性ミネラロコルチコイド活性を確認した。蛍光陽性のスポットの溶出成分はΔ−4−3keto group をもち blue tetrazolium にて染色され,UV 吸収スペクトラム上 240μm にピークをもつことを明らかにした。
アルドステロンの分離と結晶化の成功
1953 年,上記の背景をもとに Simpson & Tait, Wettstein, Neher, von Euw, Reichstein ら 1)1)Simpson SA, Tait JF, Wettstein A, Neher R, Von Euw J, Reichstein T. Experientia 1953;1X:333−5. (アングロサクソン・スイスの研究協力)によりアルドステロン純物質の分離・結晶化は成功した。
材料となったのは,ウシ副腎 500 kg で,そのエチレンジクロライド抽出エキス(167 g)を 30%メタノールに溶解し,
蒸発残渣物をクロロホルム・エーテルにて抽出,弱酸,アルカリで洗浄し蒸発乾固,27 g を得た。
この抽出物を kieselguhr column にかけ 70 日を要して 140 分画(2 分画/日)に分けた。
生物学的活性部分は86〜91 分画中にあり,この分画の蒸発乾固物(324 mg)を再びセルロース・カラムにかけ,
57 分画中,32〜39 分画の活性溶出液を結晶化した。最終結晶産物は 21.2 mg であつた。
1954 年,化学構造が決定され,従来のステロイドの特性である C−18 位 CH3と違い C−18 にアルデヒド−グループ
構造をもつことが明らかにされ,当時の暫定名エレクトロコルチンを改めアルドステロンと名づけられた。さらにこの新たなステロイドの
Na 貯留作用は副腎全摘ラット尿中 Na/K 比を指標にした生物検定法によると,DOC の 100 倍に相当した
2)Tait RD, Tait AS. In:Biglieri EG, Melby JC editors. Endcrine Hypertension.
New York:Raven Press;1990. p.5−27.。
この新規ステロイドのアルドステロンは,イヌ,サル,ラット,ヒトの副腎静脈血中からも分離され, ホルモンとして明確に位置づけられたのである。さらに微量ながら魚類や蛙など水棲脊椎動物の末梢血中にも見出され, 他の動物における濃度より高めに存在することが判明した。
アルドステロンの合成は,1955 年 Schmidlin によりなされたが,生体では dextrorotary(右旋光性)D−アルドステロンおよび levorotary(左旋光性),つまり光学的に L−,D−二つの異性体を含んでいた。 L−異性体は生物学的に D−異性体より弱く,D はゆるやかに代謝される。
上記の Simpson & Tait によるアルドステロン結晶化の成果は,Proceedings of the Staff Meeting of Mayo に報告され(Oct 7, 1953), 3 週後 Experientia 誌に 1)1)Simpson SA, Tait JF, Wettstein A, Neher R, Von Euw J, Reichstein T. Experientia 1953;1X:333−5. Simpson SA, Tait JF, Wettstein A, Neher R, von Euw J, Reichstein T の連名で Isolierung eines neuen kristallisierten Hormones aus Nebennieren mit besonders hoher Wirksamkeit auf den Mineralstoffwechsel の題で,さらにアルドステロンの構造については翌年(1954)の Experientia 誌 3)3)Simpson SA, Tait JF, Wettstein A, Neher R, Von Euw J, Schindler O, et al. 1954;X:132−3. に掲載された(図 1)。
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一方,以上の輝かしいアルドステロン発見物語の裏には,DOC とは異なるミネラロコルチコイドが存在する可能性を想定しながら, これを無晶形分画から Na 貯留化合物として同定するに至らなかったいくつかのエピソードが隠れている。 その中にはまず Luetscher 一門 4)4)Deming QB, Luetscher JA Jr. J Clin Invest 1950;29:808. の業績があげられる。彼らは,心不全患者(循環血漿量の低下に伴い二次的にアルドステロン分泌亢進とこれに拮抗する BNP の分泌増加を起こす続発性アルドステロン症)の尿を酸水解した後,そのクロロホルム・エキスにミネラロコルチコイド活性を見出し, ペーパークロマトグラフィー上,DOCより極性の高い Rf を示す物質を認めていたが同定に至らなかった。 後年,Tait 研究グループの協力により Bush,Zaffaroni系ペーパークロマトグラフィーを適用し, ネフローゼ患者尿エキスよりエレクトロコルチンと同一化合物を分離した。1954 年のことである (The Sir Henry Dale Lecture for 1979:Recent perspectives in the history of the adrenal cortex)。
そのほか,未完に終わった Pincus(ヒト尿中に未同定の DOC と異なる Na 貯留活性あり,1949), Spencer(ブタ副腎静脈血中にコルチゾン,コルチゾールから分離できないミネラロコルチコイド活性あり,1950), Chart& Gordon(妊娠中毒症患者尿の抽出物に Na 貯留活性あり,1951), Knauff ら(ブタ副腎よりミネラロコルチコイドの性状をもつ物質を調整,1953)の研究があげられよう。
原発性アルドステロン症の発見
アルドステロンが分離・結晶化された翌年,この発見を待っていたかのように Conn 教授 5)5)Conn JW. J Lab Clin Med 1955;45:3−17. によってアルドステロン分泌異常症として副腎原発のアルドステロン産生腺腫;原発性アルドステロン症が見出された。 その後数年のうちにわが国においても本症が矢継ぎ早に報告され(表 1), 本症は,内分泌高血圧の主要なる位置を占めるに至った。その頻度はかつて本態性高血圧症の 1%以内にとどまるとされていたが 6)6)Takeda R. Jpn J Med 1987;26:91−5., ここ四半世紀に報告された数値をみると被検対象をいかに選ぶか,またスクリーニング法いかんによって発見率は異なるが, 従来の見解よりさらに高い頻度が報告され(Mantero F, special lecture at the 16th Endocrinol−Update, 2006), わが国でも西川ら(2004,2005)は高率に本症患者を見出している。 また甲状腺疾患がヨード不足の地方に多いように,アルドステロン細胞が慢性刺激状態にあるような亜熱帯地方の気候条件下ではアルドステロン分泌に影響がでる可能性も否定できないとの意見もある(Gordon RD, et al. 2005 7)7)Gordon RD, Laragh JH, Funder JW. Trends Endo−crinol Metab 2005;16:108−13. :たとえばQueensland)。一般に降圧薬抵抗性高血圧,とくに重症でかつ罹病期間の長い患者では 20%もの高率に見出されるという (Gordon RD, et al. '91, Gallay BJ, et al. '01, Calhoun DA, et al. '02, Eide IK, et al. '04)。 本症の発見率の向上には,Aldo/PRA 比によるスクリーニング導入や副腎静脈血のアルドステロン測定による診断が寄与している 88)Mulatero P, Stowasser M, Loh KC, Fardella CE, Gordon RD, Mosso L, et al. J Clin Endocrinol Metab 2004;89:1045−50., 9)>9)Olivieri O, Ciacciarelli A, Signorelli D, Pizzolo F, Guarini P, Pavan C, et al. J Clin Endocrinol Metab 2004;89:4221−6.。 かつては四肢麻痺,すなわち低カリウム血症による症状が診断の指標とされたが, 1992年以降血清カリウム正常の高血圧患者にも発見されることが注目されている (Gordon RD, et al. 1992〜1994, Rossi E, et al. 1992, Szucs N, et al. 2006)。
| 表1 わが国における当初の原発性アルドステロン症の報告 | ||
| 報告者 | 年齢・性 | 副腎所見 |
| 鳥飼竜生ほか(1957) | 46/M | r/ademoma |
| 大関基裕ほか(1957) | 25/F | r/ademoma |
| 阿部裕ほか(1959) | 37/M | not op |
| 宮崎五郎ほか(1959) | 31/M | I/ademoma |
| 脇坂行一ほか(1959) | 27/M | I/ademoma |
| 阿部裕(1959) | 44/M | died for stroke |
| 阿岸幸ほか(1959) | 28/F | r/ademoma |
| 前沢秀憲ほか(1959) | 37/F | r/ademoma |
| 上田英雄ほか(1959) | 49/F | not op |
| 鳥飼竜生ほか(1959) | 6例 | all:adenoma |
| 三宅儀ほか(1959) | 42/F | hyperplasia |
| 村上元孝ほか(1960) | 48/M | r/ademoma |
| (1961) | 35/F | r/ademoma |
もっとも原発性アルドステロン症の発見当初から,本態性高血圧症とみなされている人口のなかに minihyperaldosteronism ともいうべき亜型の潜在を追求しようとする試みがなされた。たとえば宮保(1961)が尿中アルドステロンを測定した成績では,本態性高血圧症のなかに一部尿中アルドステロン値の高い症例が認められている。この成績は,Framingham Offspring Study の対象とした Vasan ら(2004)の結果と一部相通ずる点がある。 いま一つの興味は,原発性アルドステロン症では,血圧の程度を超えて心血管系合併症(脳,心肥大など)が本態性高血圧症に比べ高率に認められ 10)10)Takeda R, Matsubara T, Miyamori I, Hatakeyama H, Morise T. J Endocrinol Invest 1995;18:370−3. 〜 11)Tanabe A, Naruse M, Naruse K, Hase M, Yoshimoto T, Tanaka M, et al. Hypertens Res 1997;20:85−90. 12)12)du Cailar G. Ann Cardiol Angeiol 2004;53:147−9., 最近ではメタボリック症候群との関連が示唆されている点である 13)13)Follo F, Veglio F, Bertello C, Sonino N, Della Mea P, Ermani M, et al. J Clin Endocrinol Metab 2006;91:454−9. 。また超音波検査法により見出される甲状腺疾患が多いことも報告 14)14)Armanini D, Nacamulli D, Scaroni C, Lumachi F, Selice R, Fiore C, et al. Endocrine 2003;22:155−60.されている。
原発性アルドステロン症の治療は,アルドステロン産生腺腫の局在診断に従い,腺腫を摘出することに尽きるが,近年,マルチ・デテクター CT(MDCT)による画像診断,副腎静脈血採取によるアルドステロン濃度測定を行えば,微小腺腫を見出しうることが注目されている。またわが国でも 1992 年以来,腹腔鏡下副腎摘出術が適用されるようになった。
低アルドステロン症
1955 年,Conn はアルドステロンのみが十分産生できない病態はまだ報告されていないと記載したが, 彼が予想した選択的アルドステロン産生不全の症例は,1957 年 Hudson ら 15)15)Hudson JB, Chobanian AV, Relman AS. N Engl J Med 1957;257:529−36. によって「低アルドステロン症,高カリウム血症と Stokes−Adams 発作を呈する選択的副腎ミネラロコルチコイド欠乏の一患者に関する臨床的研究」のタイトルで報告された。 その後,次々と症例が経験され(Hill SR Jr, et al. 1959),選択性低アルドステロン症は,成立機序に従ってレニン低下に二次的な低レニン性低アルドステロン症, アルドステロン酵素欠損による,受容体異常による,腎,糖尿病に合併するものなどさまざまのタイプに分類 16)16)竹田亮祐.日本内科学会雑誌 1986;75:1189−203.されるようになった。
血漿中アルドステロンの存在様式-アルドステロンの作用と受容体のクローニング
アルドステロン作用とは直接の関係はないが,血漿中アルドステロンは, 他のコルチコイドと同じくコルチコイド結合グロブリン(CBG)とルーズに結合し標的細胞に到達する。一般にコルチコイド−CBG 結合はエチレンクロライドのような溶媒で容易に解かれる。 アルドステロンについてはカラム電気泳動で各 CBG およびアルブミンとの結合ピークに加えα1−グロブリンと同じ部位に泳動するもう一つのピークが認められ,この分画は Sephdex G−200 ゲル濾過上アルブミンとの間に溶出される一種の糖蛋白沈降分子であるという 17)17)Katayama S, Yamaji T. J Steroid Biochem 1982;16:185−92.。
さてアルドステロンに特有の Na 貯留作用がどのようなメカニズムを介して発揮されるかに関しては, グルココルチコイド同様に特異的受容体の解明が待たれていた。 もっとも,これより先1972 年 Feldman らは, 腎尿細管における Na トランスポートは上皮内細胞に存在するアルドステロンと特異的に結合する受容体によることを3H−aldo を用いた動物実験で示したが,同様の知見はヒト腎を用いた実験でも明らかにされた(1976)。 また 1980 年代には Meyer ら,Kornel らによりコルチコイドの昇圧作用のメカニズムを説明する機序の一つとして血管平滑筋細胞質にはミネラロ−, グルコ−コルチコイドに高い親和性をもって特異的に結合する蛋白分子が存在することが示されていた(表 2)。
| 表2 動脈壁ないし血管平滑筋細胞におけるミネラロー, グルコーコルチコイド結合分子の存在に関する研究 |
| Mineralocorticoid binding in cultured
smooth muscle cells and fibroblasts from rat aorta. (Meyer WJ 3rd, et al. J Steroid Biochem 1981;14:1157−68.) |
| Studies on high affinity binding of mineralo−and
glucocorticoids in rabbit aorta cytosol. (Kornel L, et al. J Steroid Biochem 1982;16:245−64.) |
| Arterial steroid receptors and their putative
role in the mechanism of hypertension. (Kornel L, et al. J Steroid Biochem 1983;19:333−44.) |
| Cortisol−21−sulfate(FS)is a specific ligand
for intracellular transcortin:demonstration of three types of
high affinity corticosteroid binders in bovine aortic cytosol
by a combined use of FS and RU 28362. (Hayashi T, et al. Endocrinology 1990;126:307−16.) |
| Aldosterone and dexamethasone binding in human
arterial smooth muscle cells. (Scott BA, et al. J Hypertens 1987;5:739−44.) |
1987 年,Arriza ら18)18)Arriza JL, Weinberger C, Cerelli G, Glaser TM, Handelin BL, Housman DE, et al. Science 1987;237:268−75.は, グルココルチコイド受容体と相同性の高い構造(C−末リガンド結合領域:LBD はグルココルチコイドの相当域と 57%の相同性)をもち, したがってコルチゾールとも高い親和性を示すミネラロコルチコイド受容体のクローニングに成功した(図 2)。 かくてアルドステロンの作用は,細胞内受容体との結合を介しアルドステロン誘導蛋白 AIPs(aldo−induced proteins)生成をエンコードし特異的遺伝子の転写を増強し発現されると説明されるようになった 19)19)Fuller PJ. Trends Endocrinol Metab 2005;15:143−6.。 コルチゾールは LBD にアルドステロン相応の結合性をもちながらアルドステロン作用を発現しない。 周知のようにこの特異性の維持には 11−βHSD2がコルチゾールと受容体との結合に阻止的に働いているからである。

因みに本態性高血圧症のなかに 11−βHSD2活性低下を示す亜群があるとの仮説(11−βHSD2の 酵素活性欠乏のためコルチゾールとミネラロコルチコイド受容体との結合阻止作用が失われる結果, コルチゾールのミネラロコルチコイド作用が発現する)がある。筆者らは否定的な成績を報告した(Iki K, et al. 1994)が,この仮説を支持(Bocchi B, et al. 2004), あるいは 11−βHSD2活性と本態性高血圧症患者の左室マスとの相関性を認めたとの報告(Glorioso N, et al. 2004)がなされている。
抗アルドステロン物質(アルドステロン拮抗薬)の開発
アルドステロン作用に拮抗する薬物を合成しようとする試みは,まずアルドステロンの化学構造がコルチコステロンの C18 位にアルデヒドをもつこと, 第二に外因性にミネラロコルチコイドを投与した場合,プロゲステロンが尿中 Na 利尿を促進するという臨床報告に動機づけ始められた(Landau WM, et al. 1957)。 筆者らも図示のように各種の二次性高アルドステロン症にプロゲステロンを投与し,その効果が投与前,尿中アルドステロン排泄値が高いほど顕著である事実を発表した(図 3)。 あたかもこの頃 Searle 研究所の Kagawa らはミネラロコルチコイド阻害活性を検定する動物モデルを考案し, この方法を用い種々のステロイド化合物が検定された。Searle社の John Cella は ミネラロコルチコイド拮抗作用を有するプロゲステロンと強心作用をもつジギトキシンとを一つの分子のなかに封じ込んだ一連の化合物を合成した。 これらの化合物はKagawa の検定法で非経口的投与では活性を現したが,単独では尿中 Na/K 比に影響を及ぼさなかった。 しかしアルドステロン作用を競合的に阻害することが判明し1957〜59 年にわたり各種のステロイド・ラクトン化合物が開発され, Na/K を指標に最適,かつ経口投与で有効なスピロノラクトン(アルダクトン®)が誕生したのである。 わが国では,1961 年,日本内分泌学会―宿題シンポジウムとして抗アルドステロン物質の検討―が取り上げられ (表 3),主として SC−9420(アルダクトン)の臨床的治験成績ならびに pregnane−3βα,5α,6β,16β, 20α−pentol(POL)の抗アルドステロン効果などの基礎的研究が討議された。
| 表3 アルドステロン拮抗薬開発の歴史ー素ピノラクトンからエプレレノン, そして非ステロイド系アルドステロン合成酵素阻害薬の開発 |
|
| 1950 1953 1957〜59 |
アルドステロンの分離・同定 Kagawa-assayとスピロノラクトンの創製 |
| 1960s 1960 1961 |
スピロノラクトン(アルダクトン)市場へ レニンーアンジオテンシンーアルドステロン相互関係の究明 |
| 1970s 1973〜79 |
スピロノラクトンの非選択性の限界 |
| 1980s 1987 |
標的器官受容体選択性の高いエプレレノンの出現 |
| 1990s 1990 1991 1993 1998 |
心線維化に関わるアルドステロンの病因的意義の究明(Brilla et al.) 心線維化はend-organの小動脈炎症に基づくとする説(Rocha et al.) エプレレノン世界特許(Searle社) RALES trial(心不全に対するスピロノラクトンの効果) |
| 2000s 2002 2003 2004 |
高血圧にエプレレノン認可(USA) EPHESUS trial(2001)心筋拘束後心不全に効果 非ステロイド系CYP11B2阻害薬の合成 |
| 日本内分泌学会シンポジウム:アルドステロン拮抗物質(1961)より | |
その後アルダクトンは手術が適用できない原発性アルドステロン症,あるいは浮腫を伴う続発性アルドステロン症の治療薬として広く有用視されてきた。 筆者らは,アルドステロン腺腫の術前に長期の治療を施した例では術後のレニン―アルドステロン反応系の回復が非治療群に比べて早いのではないかとの観察を報告した (Morimoto, et al. 1970)。 また,アルドステロン腺腫の手術的治療を拒否し続けた一患者にアルダクトン治療を四半世紀にわたり行った症例を経験している 20)20)Takeda R, Yamazaki T, Ito Y, Koshida H, Morise T, Miyamori I, et al. Acta Endocrinol 1992;126:186−90. (図 4)。
アルドステロン受容体拮抗薬アルダクトンは,とくに大量を長期使用する場合の副作用として, 性ホルモンの標的器官への作用が一つの難点であったが Ciba−Geigy 社の J. Grob が合成したエプレレノンはアルダクトンに比較して, アンドロゲン受容体に対しジヒドロテストステロン賦活作用は1/370 であり,プロゲステロン活性はないことが確認されている。 さらにエプレレノンは心筋梗塞後心不全患者(6600 例)の治験においてスピロノラクトンによって得られた RALES trial の成績と同じく死亡率の減少効果をあげたのである(表 3)。 さらに最近では非ステロイド系アルドステロン合成酵素阻害薬が開発されつつある 21)21)Ulmschneider S, Negri M, Voets M, Hartmann RW. Bioorg Med Chem Lett 2006;16:25−30.。
おわりに
半世紀にわたるアルドステロン研究の軌跡をアルドステロンの発見物語, これに呼応するかのように見出された新しい臨床的概念としての hyper−, hypo−aldosteronisam, ミネラロコルチコイド受容体のクローニング,その拮抗薬の開発史を中心に述べた。 なお,近年論議の的となっている副腎外アルドステロン生成や高血圧の標的器官におけるアルドステロン局所作用についての研究が どのような過程で展開されてきたかについては他誌に記述したので省いた。
文 献
1)Simpson SA, Tait JF, Wettstein A, Neher R,
Von Euw J, Reichstein T. Experientia 1953;1X:333−5.
2)Tait RD, Tait AS. In:Biglieri EG, Melby JC editors. Endcrine Hypertension.
New York:Raven Press;1990. p.5−27.
3)Simpson SA, Tait JF, Wettstein A, Neher R, Von Euw J, Schindler O,
et al. 1954;X:132−3.
4)Deming QB, Luetscher JA Jr. J Clin Invest 1950;29:808.
5)Conn JW. J Lab Clin Med 1955;45:3−17.
6)Takeda R. Jpn J Med 1987;26:91−5.
7)Gordon RD, Laragh JH, Funder JW. Trends Endo−crinol Metab 2005;16:108−13.
8)Mulatero P, Stowasser M, Loh KC, Fardella CE, Gordon RD, Mosso L,
et al. J Clin Endocrinol Metab 2004;89:1045−50.
9)Olivieri O, Ciacciarelli A, Signorelli D, Pizzolo F, Guarini P, Pavan
C, et al. J Clin Endocrinol Metab 2004;89:4221−6.
10)Takeda R, Matsubara T, Miyamori I, Hatakeyama H, Morise T. J Endocrinol
Invest 1995;18:370−3.
11)Tanabe A, Naruse M, Naruse K, Hase M, Yoshimoto T, Tanaka M, et al.
Hypertens Res 1997;20:85−90.
12)du Cailar G. Ann Cardiol Angeiol 2004;53:147−9.
13)Follo F, Veglio F, Bertello C, Sonino N, Della Mea P, Ermani M, et
al. J Clin Endocrinol Metab 2006;91:454−9.
14)Armanini D, Nacamulli D, Scaroni C, Lumachi F, Selice R, Fiore C,
et al. Endocrine 2003;22:155−60.
15)Hudson JB, Chobanian AV, Relman AS. N Engl J Med 1957;257:529−36.
16)竹田亮祐.日本内科学会雑誌 1986;75:1189−203.
17)Katayama S, Yamaji T. J Steroid Biochem 1982;16:185−92.
18)Arriza JL, Weinberger C, Cerelli G, Glaser TM, Handelin BL, Housman
DE, et al. Science 1987;237:268−75.
19)Fuller PJ. Trends Endocrinol Metab 2005;15:143−6.
20)Takeda R, Yamazaki T, Ito Y, Koshida H, Morise T, Miyamori I, et
al. Acta Endocrinol 1992;126:186−90.
21)Ulmschneider S, Negri M, Voets M, Hartmann RW. Bioorg Med Chem Lett
2006;16:25−30.


