Therapeutic Research vol.25 no.6
総合討論 高齢者における降圧治療のメリット

久代(座長) 最近のエビデンスを含めてすばらしいレビューをしていただきました。高齢になるほど高血圧のリスクは増加するので,70歳以上の患者でも降圧したほうがよいというお話でした。高齢者の定義は70歳以上と考えてよろしいですか。

桑島 現在は70歳以上でも若い印象の方が増えてきています。75歳あるいは80歳以上が本当の意味では高齢者に類するのではないかと思いますが,これまでの論文では65〜80歳を高齢者として議論しています。

五味 高齢者と超高齢者をどこで区切るかということは非常に難しい問題です。個人差が大きく,高齢者に属する72〜73歳もいれば,78歳でも60歳代と同様に扱いたくなるような患者もいます。

久代 80歳以上についても降圧したほうがよいというエビデンスはありますか。

桑島 基本的にはサブグループ解析になります。従来の大規模試験の高齢者高血圧のサブグループ解析には,超高齢者(80歳以上)が5〜10%含まれています。超高齢者を抽出してメタアナリシスを行った結果,80歳以上で降圧治療を行っても死亡率には影響しませんが,脳卒中や心不全のリスク減少にはつながっています。80歳以上になると,心血管イベント以外の肺炎や癌で亡くなる人が多くなります。それらを除外して解析すれば,若年者〜80歳と同様に,80歳以上でも血圧と臓器障害,イベントの関係は直線関係になると思います。

久代 ESH-ESCのガイドラインにも,80歳以上でも降圧のメリットが得られるであろうと記されています。80歳以上は個人差が大きく,標的臓器障害の有無でも対応は異なると思いますが,一次予防,二次予防に関してはどうでしょうか。

桑島 二次予防的に降圧したほうがよいというのが一般的見解です。

高齢者の降圧目標と有害事象

石井 桑島先生は高齢者の降圧目標値はどうされていますか。

桑島 年齢にかかわらず収縮期血圧で140 mmHg未満を降圧目標にしています。

石井 JSH 2000は合併症を予防するために,高齢者では血圧を下げすぎないようにするという考え方が基になって作成されましたが,過度の降圧による有害事象,副作用などを経験されたことはありますか。

桑島 高齢者では急激な降圧で,ふらふら感などの副作用が問題になり,下げ止まりという意見がありました。しかしながら,これまでのエビデンスを総括すると,ふらふら感とイベント発症とは別の問題であることがわかります。脳卒中や心筋梗塞などのイベントは非可逆性ですが,ふらふら感は降圧を緩徐にすることなどで軽減することが可能です。

石井 血圧の高い人に対する緩徐な降圧療法には,(1)160/90mmHg未満をターゲットにして安定させ,次の段階で140/90mmHgを狙う方法,(2)数ヵ月間かけて何mmHgずつ下げる方法がありますが,具体的にはどのくらいのスピードで下げればよいのでしょうか。

築山 具体的なエビデンスはありませんが,降圧薬の用量の問題が大きいと思います。

桑島 多くの降圧薬は血中濃度依存性なので,血中薬物濃度,T/P比で代表されるように,服用後5〜6時間で急激に血圧が下降し,徐々にもとに戻ります。降圧効果の強い薬剤を投与すれば数時間後に急激に血圧は下がります。一方,利尿薬では数週間,数ヵ月単位で徐々に降圧していきます。したがって,長時間持続性の薬剤を選択することと降圧薬の追加を考える際には,2〜3ヵ月ごとに追加していき,急激な降圧を回避することが重要です。

久代 JNC 7ではStage 2の高血圧に対して,最初から利尿薬を含めた2剤併用治療を推奨しています。結果的に併用療法となることが多いとしても,降圧を急ぐ必要はないわけですから,高齢者では緩徐に降圧するという趣旨に反する気がします。

築山 大規模臨床試験の降圧効果に関するメタアナリシスでは,単剤では拡張期血圧5mmHg程度しか降圧できず,2剤以上ではじめて10 mmHg以上降圧したため,160/100mmHg以上に対しては降圧目標値達成のために2剤併用という方針を打ち出しているのです。

上原 2剤のうち1剤は利尿薬ですので,大幅な降圧はないと思います。利尿薬を使うとなると2剤を使わざるをえないということです。

 最近のガイドラインの基になっているエビデンスの多くが治療試験データです。治療試験の結果からいえることは,目標設定に対してどれだけ効果があったかということで,個々の事象をみて,そのレベルまでしか降圧できないと結論づけることはできません。

 ANBP 2試験の対象者の最高齢は85歳ですので,その年齢までを対象に治療しても効果が得られることは理解できます。しかしながら,わが国では高血圧は早期にスクリーニングされて治療が開始され,高齢者ではじめて血圧が高いことが発見される患者はほとんどいません。したがって,日常われわれが遭遇する血圧管理の問題は,加齢によってさらに上昇した血圧をそのまま放っておいてよいのか,それとも血圧を十分にコントロールできている状態まで低下させて持続させたほうがよいのかという点になると思います。

久代 たしかに降圧療法が普及して,80歳ではじめて高血圧と診断されるより,60歳代から治療を受けながらも,コントロール不良なまま高齢者になってしまった患者の治療が問題になることが多いと思います。その場合,80歳以上と80歳未満に分けて考えたほうがよいのでしょうか。

桑島 基本的には血圧と臓器障害の関係は一定です。高血圧は血管に対して負荷になるために,とくに高齢者で弱った血管ほど負担は減らしておいたほうがよいという考えは一致していると思います。ただし,80歳,90歳になると,社会的な背景や合併症,自律神経などいろいろな要素が加わってきます。痴呆,ADL(activities of daily living)低下例に対しては降圧したほうがよいと思いますが,その他の要素では副作用を踏まえながら,個々の症例に対して総合的な判断が必要になります。

上原 80歳以上の患者の血圧管理に関しては,データがない状態でまとめ上げることこそ問題です。何がわからないかをはっきりさせることがガイドラインとして重要です。それによって,わが国で検討しなければならない問題点が明らかになり,問題解決を図ることが大切だと思います。

松岡 高齢者高血圧の治療効果に関する研究(JATOS)では収縮期血圧の降圧目標値を160 mmHg未満と140mmHg未満に分けて検討しています。 さらに,高齢者収縮期高血圧を対象として,アンジオテンシンII受容体拮抗薬を用いたVALISH研究も計画されています。この試験では降圧目標値を150mmHg未満と140mmHg未満に設定して検討することにしています。

築山 海外のデータになりますが,80歳を超える超高齢者の降圧治療の有効性に関して,HYVETのパイロット試験が「Journal of Hypertension」の2003年12月号に掲載されています。まだ抄録しか読んでいませんが,この試験は80歳以上の症例を対象に,150/80mmHg未満を降圧目標として治療を行った結果,脳卒中は抑制されましたが,死亡に関しては増加傾向がみられました。

久代 降圧したほうが死亡は増えていたということですか。

築山 はい。現段階の大規模臨床試験において,80歳以上では降圧によるベネフィットが大きいという結論には至っていないと思います。従来の超高齢者高血圧の治療成績を解析すると,死亡率は減少しなくても脳卒中が減少することで患者のADLはよくなり,降圧のベネフィットはあると考えるのが一般的でしたが,今回の成績では死亡について増加傾向がみられたということです。

桑島 HYVETのパイロット試験が終了したので,高齢者が多いわが国にも本試験に加わってほしいという問い合わせを受けました。 利尿薬のインダパミドと第二選択薬としてACE阻害薬,ペリンドプリルを用いる予定ですが,わが国では,試験スポンサーのセルヴィエはインダパミドを販売していないこと, プラセボを使う試験は倫理的に難しいことから保留になっています。パイロット試験の結果では,全死亡は治療群でやや増加傾向はあっても,有意ではありませんでした。 脳卒中に関してはむしろ治療群が有意に良好という結果でした()。

図 HYVETパイロット試験の結果
症例数1,283例,80歳以上の超高齢高血圧患者において降圧治療の有効性およびリスクを検討。
(Bulpitt CJ, et al. J Hypertens 2003;21:2409-17.より改変)
図

久代 一般的に80歳をすぎて血圧が下降している人は,心筋梗塞,心房細動,大動脈弁狭窄あるいは心不全などによる選択バイアスを考慮する必要があると思いますが,いかがですか。

桑島 疫学研究でも超高齢者になると血圧が低い人ほど死亡率が増すということが出ています。悪性腫瘍などの疾患をもつ患者が混じっている可能性もあるので,治療開始時点での対象者の選択が重要ですね。

石井 80歳以上では薬物治療の効果は明らかになっていないと思います。実際の診療現場で血圧が高いと起こりやすいのは心不全です。一方,高齢者では網膜の眼底出血は非常に少ないと思いますので,心不全の症状があれば治療するという方針です。また脳症のような頭痛を訴える場合にも,治療するようにしています。症状がない場合は,多少血圧が高くても経過をみるようにしています。注意が必要なのは,高齢者で腎動脈狭窄のために急激に血圧が上昇する症例です。そういう症例は治療が難しく,80歳をすぎてアテローム硬化性の腎動脈狭窄が起きている場合には,PTA(percutaneous transluminal angioplasty)を行っても再狭窄をきたしやすいとされています。

桑島 高齢者の合併症では,心房細動も無視できないと思います。心房細動は一次あるいは二次エンドポイントに含まれていない研究も多いのですが,脳卒中の要因になります。心房細動と高血圧の密接な関係は,心房細動からみた追跡研究などからわかってきていますが,高血圧の見地からも心房細動予防を念頭においた治療をすべきだと思います。

HOT研究,ALLHAT試験から考えること

松岡 前向きに降圧目標を設定して検討した介入試験はHOT研究だけです。HOT研究では主要な心血管系イベントの発生率がもっとも低かったのは139/83mmHgでした。 心血管イベントの抑制に降圧が重要であるなら,HOT研究においても血圧とイベントの関係が直線的になってもよいのではないかと思います。介入試験では“the lower, the better”は示されていませんので,前向き介入試験ではどこまで降圧すればよいのか結局わからないということではないでしょうか。

桑島 HOT研究は降圧目標値を拡張期血圧90 mmHg以下,85mmHg以下,80mmHg以下という3群に分けて開始して, 心血管系合併症予防効果をみていますが,各群の到達レベルが1〜2mmHg程度の差であったため,イベント発症率に有意差は得られませんでした。 したがって,HOT研究からイベント発症率あるいは収縮期血圧に関することは何もいえないと思います。

石井 HOT研究で治療効果が明確になったのは,糖尿病合併群です。全体においても糖尿病合併例が約2割含まれており, 糖尿病合併例を除外して解析すると,治療効果は明確でなくなるといわれております。

久代 しかしALLHAT試験では,もっとも血圧が低かった利尿薬群と他群における収縮期血圧に2〜4mmHg前後の差があり, それがイベント発症率に差を生じさせた可能性がありますので,集団の血圧平均値が2mmHg以上違えば,イベ ント発生率に差があってもよいように思えます。

 ALLHAT試験はクロルタリドン12.5 mg/日でスタートしていますが,少量利尿薬に切り替えて,さらに血圧が下降することに関してどうお考えですか。

松岡 ALLHAT試験は3剤以上でコントロールできない症例は除外されていて,重症高血圧は含まれていません。 10%の未治療症例も平均血圧約150/90mmHgと軽症高血圧です。2剤でコントロールされていることから考えても,軽症高血圧例が大半であったため,130mmHg程度まで下げられたのではないでしょうか。

桑島 いちばん関心があるスイッチ前の降圧薬の種類,量,期間が発表されなかったので, 利尿薬を使っている症例が多かったのではないかと想像しています。ただし,対象者は高血圧以外に一つ以上の冠動脈のリスク疾患がある患者なので, リスクの高い人が選択されています。約5年間に及ぶ試験ですので,降圧薬の矯正もいろいろと行われ,3〜4年経過後には3群間で血圧値はほぼ同程度になり, 治療終了期には非常に近い値になっています。これは降圧薬の漸増が効いているためだと思います。

石井 心疾患の合併患者で利尿薬が有効だということです。ALLHAT試験の問題点は, 対象者の約8割が割付け前に利尿薬を服用していたと思われる点です。急性心筋梗塞後状態の患者や心不全の患者が相当含まれており, これらの患者を対象に利尿薬を中止すれば,症状が悪化するのは当然です。ALLHAT試験は,「アムロジピンあるいはACE阻害薬と利尿薬の比較」ではなくて, 「利尿薬の継続と中断の比較」ではないかという批判もあります。

上原 ALLHAT試験は築山先生がお示しになった解釈がいちばん正当だと思います。 黒人で利尿薬が効いて,血圧が下がったことで全体を説明できると思います。

 通常の臨床試験では,血圧高値の状態から開始しますが,ALLHAT試験では約140mmHgから,さらに血圧を下げることのメリットがわかったことが重要です。 HOPE試験も高血圧群,非高血圧群が含まれていますが,いずれの群でもACE阻害薬群で心血管系イベントを抑制することがわかりました。 今後は開始時の血圧から,どの程度降圧可能かを区別して議論していかなければいけないと思います。

久代 JSH 2000では,70歳代の降圧目標は150 mmHgになっていますが,140mmHg未満が妥当なのでしょうか。

松岡 高齢者の降圧目標については明確なエビデンスはありません。この点についてはJSH 2000の改訂で変更される可能性があります。

特殊な社会集団の血圧管理

桑島 わが国のガイドラインにおける腎障害あるいは糖尿病合併例の降圧目標値130/80mmHgの根拠は,海外のデータをそのままもってきたのでしょうか。

松岡 そのとおりです。

石井 UKPDS 38試験の厳密な降圧療法群でも平均到達血圧は144/82mmHgで,130/80mmHgではありません。 ADAのガイドラインで糖尿病合併例では130/80mmHg未満がよいという結論は,血圧の低い人,高い人を混合して治療した結果, 最終的にどのくらいの血圧がよいかという回帰線を引いて外挿した結果です。そのような方法で降圧目標を決めることは問題ではないかと私は思っています。

築山 Syst-Eur試験の年齢と予後改善効果の検討では,高齢になるにしたがって予後改善効果が少なくなっていました。 HOT研究のサブグループ解析のなかで,80mmHg以下群および85mmHg以下群と90mmHg以下群との比較が「Journal of Hypertension」に報告されています1)1) Zanchetti A, et al. J Hypertens 2001;19:819-25.。 その結果,糖尿病および高リスク群では,血圧が低いほうが予後がよく,喫煙者群だけにJカーブ現象がみられました。

 結論的には140/90mmHg未満,糖尿病例ではさらに低い降圧目標でよいと思っていますが,高齢者では注意をする必要があるといった但し書きが必要ではないでしょうか。

景山 糖尿病を伴う高血圧の場合には,大血管障害と腎症などの細小血管障害の両方を考える必要があります。腎症の場合には,Jカーブ現象は起こらないことがほぼ明らかになっていますので,できるだけ降圧したほうがよいと思います。大血管障害の場合は,ガイドラインよりも後にHOT研究が発表されて,糖尿病群に関しては拡張期血圧80mmHg未満を目指した群の成績がもっともよかったというエビデンスがあります。

石井 利尿薬の使用による耐糖能異常について,日本人での信頼できるデータはありますか。

景山 しかるべきサンプルサイズで,ある期間以上行った試験は知りませんが,インスリン抵抗性が増悪するというデータはいくつかあります。

石井 高齢者で血糖値を下げることは困難ですが,利尿薬の中止により短期間で血糖値が改善することが多いと思います。利尿薬の耐糖能に対する影響をきちんと評価する必要があると思います。

桑島 高齢者の大規模臨床試験を行う際,エンドポイント設定の問題があります。死亡は重要なエンドポイントですが,数が非常に少ないことが統計学上問題になりますし,高齢者では死亡要因が他にもたくさんあることも考慮しなければなりません。

久代 個人差を評価するうえでは,頸動脈のエコー所見,微量アルブミン尿,心電図所見などのサロゲート・エンドポイントが重要ではないでしょうか。

五味 そう思います。高血圧の標的臓器障害は,まず心臓に病変が現れますので,高血圧歴が明らかでない人に関しては心エコーを参考にしています。 心エコーで肥大がみとめられれば,高血圧歴があった可能性を仮定して治療を行います。臓器障害の程度を評価して, それを血圧値と比べながらコントロールしていくことが高齢者ほど必要であると思います。

降圧治療によるQOL,ADLの改善効果

久代 高齢者では心血管疾患だけでなく,痴呆やADL低下なども大きな問題だと思いますが,痴呆予防の面から降圧治療を考えるとどのようなことがいえますか。

石井 Syst-Eur試験でみられた痴呆の予防効果は,ジヒドロピリジン系のCa拮抗薬の神経細胞保護作用によると考えられています。Ca拮抗薬が血液脳関門を通って中枢神経の細胞に直接働くのではないかと推測されます。ACE阻害薬などでは同様の効果はみとめられないと考えられているようです。

多川 他の領域ではADLが指標として頻繁に使われていて,降圧療法においても重要だと思いますが,高齢者の降圧療法でADLに対する影響を解析した研究はSyst-Eur試験以外にありますか。

築山 脳卒中既往例にペリンドプリルを使用した後,インダパミドを投与して,予後を追跡したPROGRESS試験があります。この研究では認知機能および痴呆についてみています2)2) 2002年ISH/ESHにて発表。。その結果,インダパミドを加えないと,痴呆の改善,あるいは抑制効果,認知機能低下の抑制がみられず,ACE阻害薬単独でははっきりしませんでした。SHEP研究で,利尿薬による降圧治療が痴呆によくないといわれましたが,解析方法の問題が指摘されています。Ca拮抗薬やACE阻害薬だけでなく,利尿薬を含めた降圧薬療法が認知機能の低下を抑制するのではないかと考えています。QOLに関して各降圧薬についてまとめた報告が出ていますが,ポジティブな報告がほとんどです。

桑島 NICS-EH試験のサブグループ解析で,メンデル定数を含めたQOLを解析して,荻原先生が論文にされています3)3) Ogihara T, et al. Hypertens Res 2000;23:33-7.。そこでは利尿薬とCa拮抗薬にまったく差はみられませんでした。

石井 NICS-EH試験は非常に症例が少ないので,ADLの改善までみることはできないのではないでしょうか。

多川 各薬剤間でADLへの影響を比較した試験はありますが,降圧群と非降圧群の比較は行われていないのでしょうか。

石井 レトロスペクティブ解析では,前 琉球大学の柊山先生が症例を集めて分析した結果が 「Hypertension Research」に掲載されています4)4) Muratani H, et al. Hypertens Res 1996;19:281-90.

仮面高血圧,白衣高血圧の問題

久代 高齢者では,血圧の測定と判定が特に問題になると思います。Kaplanの本に「高齢者で血管が固くなってしまってカフ圧迫できない場合には,手首か指の血圧計で測ったらどうか」と書いてあります。すなわち治療抵抗性高血圧でカフ法では高いけれども直接測定すると高くないというご経験はありますか。

桑島 そういうことはないですね。日本人における偽高血圧を調べて論文にしましたが,米国ほど高度な動脈硬化は少ないので,日本人ではあまりみられないと思います。

多川 以前,自動血圧計のメーカーから依頼されてデータを取ったところ,手首では普通の水銀血圧計と差はありませんが,指では高い値が出る症例がありますね。

久代 偽高血圧はわが国の高齢者では比較的まれであるということでしょうね。

 高齢者では,早朝高血圧,仮面高血圧,白衣高血圧などの頻度が中年患者より高いため,高齢者ほど家庭血圧や早朝高血圧が重要になると思います。海外の大規模介入試験は通常3回の平均値を出していますし,外来では約3回測定して,安定性,再現性を重視しています。特に70歳以上の女性では,白衣現象が顕著な例も多いので,外来血圧だけで管理することには問題があるように思います。家庭血圧測定に関して何か意見はございませんか。

桑島 外来のワンポイント血圧よりも家庭血圧のほうが予後評価にはよいと思います。しかし,高血圧専門家は家庭血圧測定指針にある「1回だけの家庭血圧測定」に反対だと思います。今井先生は大迫研究でエビデンスを示されていますが,その他はエビデンスがありません。

松岡 個人的には外来血圧と同様に,家庭血圧においても安定した2点の平均をとるべきだと思っています。

池田 朝1回だけの測定が家庭血圧測定指針に盛り込まれた背景には,忙しい人は3回測定できないということがあると思います。

石井 一般的に外来血圧と家庭血圧の収縮期血圧が10mmHg以上違う場合を白衣高血圧と定義づけると,頻度はどのくらいですか。

池田 24時間血圧はストレスが強く正確な測定ができないので最近は行っていませんが,降圧薬治療患者において,外来血圧3ヵ月間の平均値と起床後および就寝前の家庭血圧のデータを併せてみたときに,平均値の差が10mmHg以上を白衣高血圧患者と定義すると25%ぐらいでした。

石井 現在,心エコー,心電図と併せてデータ整理を行っているところですが,私は40〜50%あると思っています。

久代 たとえ高齢者で白衣高血圧が考えられたとしても,心血管系の標的臓器障害がある方には外来血圧をコントロールすべきだという立場を取ったほうが安全だと思いますが,いかがでしょうか。

池田 白衣高血圧よりも仮面高血圧のほうが重篤です。白衣高血圧の人でわれわれが診ている患者は,ほとんど合併症を起こさないし,死に至らないので,真のエンドポイントによる検討ができません。心エコーのLV mass indexで比較すると,白衣高血圧患者は血圧コントロールがよい患者とほとんど変わりません。

久代 白衣高血圧を含めて,ストレスに伴う一時的な血圧上昇をどう考えるかにも関連すると思います。一般的に白衣高血圧は予後がよいとされていますが,われわれは白衣高血圧者は正常血圧者より心血管系危険因子の保有頻度が高く,心エコーのLV mass indexも正常血圧者より大きいことをみとめています。白衣高血圧者で,もし心エコーで左室肥大が確認されたり蛋白尿が出ていたらどうされますか。

桑島 正常血圧で臓器障害があるということは,仮面高血圧の可能性が強いですね。一方,白衣高血圧のいちばんの問題点は,外来での血圧に対して降圧薬の効果がほとんどないということです。家庭では血圧は下がって,外来血圧では上がってしまうのが白衣高血圧の一つの特徴です。

石井 白衣高血圧患者の未治療状態での家庭血圧データがないことが問題です。治療を開始しても,なかなか降圧しないので疑問に思い,家庭血圧を測定すると下がっていることがしばしば経験されます。

原田 過去の老人医療センターのデータで,外来血圧と夜間血圧に関して,LV mass indexとの関係をみたところ,外来血圧とLV mass indexはまったく相関性がありませんでした。しかし,ABPM(ambulatory blood pressure monitoring)で測定した夜間血圧とは非常に強い相関がみられました。また,脈波伝搬速度をみる際,横になっていただき,しばらく経ってから測定した血圧のほうがLV mass indexと相関傾向にありました。したがって,安静時血圧のほうが正確に病態を反映していると思います。また,白衣高血圧,逆白衣高血圧などはABPMで夜間血圧をしっかり把握することが重要だと考えています。

錦見 最近,高齢者の方で心不全の発症,心不全死が増えているということがいわれています。心不全患者のヒストリーをみると,高血圧あるいは左室肥大のヒストリーを有する患者が多いです。そのような方の心エコー所見では,比較的EFが保たれている拡張期心不全が多いようです。加齢とともに拡張機能自体も低下してきますし,拡張機能低下があれば心房細動も発症しやすい。高血圧や左室肥大は拡張機能をさらに悪化させる。このようなことから,高齢者であっても心保護の面からは,血圧をある程度下げたほうがよいと思います。

 AHA/ACCの心不全ガイドラインも改定されています。このガイドラインのなかには,心臓には構造変化はまったくなくて,高血圧,糖尿病などのリスクだけの患者も心不全の定義に含まれていて,治療対象になっています。したがって,心不全発症予防の面からも,降圧したほうがいいと思います。高血圧,左室肥大,心不全前状態の治療効果の判定,病態把握に脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が有用であることを提案したいと思います。

久代 高齢者では個々の症例における臓器障害の程度,ADLなどを評価し,個別の対応がきわめて重要なことが強調されました。EBMの時代ですが,糖尿病などの合併症と,脳CT,MRI,頸動脈エコー,微量アルブミン尿,BNPなどの臓器障害の指標をどのようにとらえて降圧療法に応用するのかについて,十分な知見があるわけではありません。したがって,日常診療では主治医の裁量に委ねられることも多くありそうです。高齢者高血圧治療をどのように実践するのかは,これからのわが国においてきわめて重要な課題です。有意義な討論をしていただき,ありがとうございました。

文献

1) Zanchetti A, et al. J Hypertens 2001;19:819-25.

2) 2002年ISH/ESHにて発表。

3) Ogihara T, et al. Hypertens Res 2000;23:33-7.

4) Muratani H, et al. Hypertens Res 1996;19:281-90.