Therapeutic Research vol.25 no.6
久代(座長) 最近のエビデンスを含めてすばらしいレビューをしていただきました。高齢になるほど高血圧のリスクは増加するので,70歳以上の患者でも降圧したほうがよいというお話でした。高齢者の定義は70歳以上と考えてよろしいですか。
桑島 現在は70歳以上でも若い印象の方が増えてきています。75歳あるいは80歳以上が本当の意味では高齢者に類するのではないかと思いますが,これまでの論文では65〜80歳を高齢者として議論しています。
五味 高齢者と超高齢者をどこで区切るかということは非常に難しい問題です。個人差が大きく,高齢者に属する72〜73歳もいれば,78歳でも60歳代と同様に扱いたくなるような患者もいます。
久代 80歳以上についても降圧したほうがよいというエビデンスはありますか。
桑島 基本的にはサブグループ解析になります。従来の大規模試験の高齢者高血圧のサブグループ解析には,超高齢者(80歳以上)が5〜10%含まれています。超高齢者を抽出してメタアナリシスを行った結果,80歳以上で降圧治療を行っても死亡率には影響しませんが,脳卒中や心不全のリスク減少にはつながっています。80歳以上になると,心血管イベント以外の肺炎や癌で亡くなる人が多くなります。それらを除外して解析すれば,若年者〜80歳と同様に,80歳以上でも血圧と臓器障害,イベントの関係は直線関係になると思います。
久代 ESH-ESCのガイドラインにも,80歳以上でも降圧のメリットが得られるであろうと記されています。80歳以上は個人差が大きく,標的臓器障害の有無でも対応は異なると思いますが,一次予防,二次予防に関してはどうでしょうか。
桑島 二次予防的に降圧したほうがよいというのが一般的見解です。
石井 桑島先生は高齢者の降圧目標値はどうされていますか。
桑島 年齢にかかわらず収縮期血圧で140 mmHg未満を降圧目標にしています。
石井 JSH 2000は合併症を予防するために,高齢者では血圧を下げすぎないようにするという考え方が基になって作成されましたが,過度の降圧による有害事象,副作用などを経験されたことはありますか。
桑島 高齢者では急激な降圧で,ふらふら感などの副作用が問題になり,下げ止まりという意見がありました。しかしながら,これまでのエビデンスを総括すると,ふらふら感とイベント発症とは別の問題であることがわかります。脳卒中や心筋梗塞などのイベントは非可逆性ですが,ふらふら感は降圧を緩徐にすることなどで軽減することが可能です。
石井 血圧の高い人に対する緩徐な降圧療法には,(1)160/90mmHg未満をターゲットにして安定させ,次の段階で140/90mmHgを狙う方法,(2)数ヵ月間かけて何mmHgずつ下げる方法がありますが,具体的にはどのくらいのスピードで下げればよいのでしょうか。
築山 具体的なエビデンスはありませんが,降圧薬の用量の問題が大きいと思います。
桑島 多くの降圧薬は血中濃度依存性なので,血中薬物濃度,T/P比で代表されるように,服用後5〜6時間で急激に血圧が下降し,徐々にもとに戻ります。降圧効果の強い薬剤を投与すれば数時間後に急激に血圧は下がります。一方,利尿薬では数週間,数ヵ月単位で徐々に降圧していきます。したがって,長時間持続性の薬剤を選択することと降圧薬の追加を考える際には,2〜3ヵ月ごとに追加していき,急激な降圧を回避することが重要です。
久代 JNC 7ではStage 2の高血圧に対して,最初から利尿薬を含めた2剤併用治療を推奨しています。結果的に併用療法となることが多いとしても,降圧を急ぐ必要はないわけですから,高齢者では緩徐に降圧するという趣旨に反する気がします。
築山 大規模臨床試験の降圧効果に関するメタアナリシスでは,単剤では拡張期血圧5mmHg程度しか降圧できず,2剤以上ではじめて10 mmHg以上降圧したため,160/100mmHg以上に対しては降圧目標値達成のために2剤併用という方針を打ち出しているのです。
上原 2剤のうち1剤は利尿薬ですので,大幅な降圧はないと思います。利尿薬を使うとなると2剤を使わざるをえないということです。
最近のガイドラインの基になっているエビデンスの多くが治療試験データです。治療試験の結果からいえることは,目標設定に対してどれだけ効果があったかということで,個々の事象をみて,そのレベルまでしか降圧できないと結論づけることはできません。
ANBP 2試験の対象者の最高齢は85歳ですので,その年齢までを対象に治療しても効果が得られることは理解できます。しかしながら,わが国では高血圧は早期にスクリーニングされて治療が開始され,高齢者ではじめて血圧が高いことが発見される患者はほとんどいません。したがって,日常われわれが遭遇する血圧管理の問題は,加齢によってさらに上昇した血圧をそのまま放っておいてよいのか,それとも血圧を十分にコントロールできている状態まで低下させて持続させたほうがよいのかという点になると思います。
久代 たしかに降圧療法が普及して,80歳ではじめて高血圧と診断されるより,60歳代から治療を受けながらも,コントロール不良なまま高齢者になってしまった患者の治療が問題になることが多いと思います。その場合,80歳以上と80歳未満に分けて考えたほうがよいのでしょうか。
桑島 基本的には血圧と臓器障害の関係は一定です。高血圧は血管に対して負荷になるために,とくに高齢者で弱った血管ほど負担は減らしておいたほうがよいという考えは一致していると思います。ただし,80歳,90歳になると,社会的な背景や合併症,自律神経などいろいろな要素が加わってきます。痴呆,ADL(activities of daily living)低下例に対しては降圧したほうがよいと思いますが,その他の要素では副作用を踏まえながら,個々の症例に対して総合的な判断が必要になります。
上原 80歳以上の患者の血圧管理に関しては,データがない状態でまとめ上げることこそ問題です。何がわからないかをはっきりさせることがガイドラインとして重要です。それによって,わが国で検討しなければならない問題点が明らかになり,問題解決を図ることが大切だと思います。
松岡 高齢者高血圧の治療効果に関する研究(JATOS)では収縮期血圧の降圧目標値を160 mmHg未満と140mmHg未満に分けて検討しています。 さらに,高齢者収縮期高血圧を対象として,アンジオテンシンII受容体拮抗薬を用いたVALISH研究も計画されています。この試験では降圧目標値を150mmHg未満と140mmHg未満に設定して検討することにしています。
築山 海外のデータになりますが,80歳を超える超高齢者の降圧治療の有効性に関して,HYVETのパイロット試験が「Journal of Hypertension」の2003年12月号に掲載されています。まだ抄録しか読んでいませんが,この試験は80歳以上の症例を対象に,150/80mmHg未満を降圧目標として治療を行った結果,脳卒中は抑制されましたが,死亡に関しては増加傾向がみられました。
久代 降圧したほうが死亡は増えていたということですか。
築山 はい。現段階の大規模臨床試験において,80歳以上では降圧によるベネフィットが大きいという結論には至っていないと思います。従来の超高齢者高血圧の治療成績を解析すると,死亡率は減少しなくても脳卒中が減少することで患者のADLはよくなり,降圧のベネフィットはあると考えるのが一般的でしたが,今回の成績では死亡について増加傾向がみられたということです。
桑島 HYVETのパイロット試験が終了したので,高齢者が多いわが国にも本試験に加わってほしいという問い合わせを受けました。 利尿薬のインダパミドと第二選択薬としてACE阻害薬,ペリンドプリルを用いる予定ですが,わが国では,試験スポンサーのセルヴィエはインダパミドを販売していないこと, プラセボを使う試験は倫理的に難しいことから保留になっています。パイロット試験の結果では,全死亡は治療群でやや増加傾向はあっても,有意ではありませんでした。 脳卒中に関してはむしろ治療群が有意に良好という結果でした(図)。
図 HYVETパイロット試験の結果
症例数1,283例,80歳以上の超高齢高血圧患者において降圧治療の有効性およびリスクを検討。
(Bulpitt CJ, et al. J Hypertens 2003;21:2409-17.より改変)
(Bulpitt CJ, et al. J Hypertens 2003;21:2409-17.より改変)