島本 WHO-ISHとJNC VIで,家庭血圧(home blood pressure:HBP)と24時間血圧(ambulatory blood pressure:ABP)測定の新しい基準値が出ていますが,両者で値が異なります。その点も含め,HBPとABPの診断基準をつけることができるのか,日本でのJ-MUBA(Japanese Multicenter study on Barnidipine with ABPM:バルニジピンの高血圧症に対する血圧日内変動試験)などの結果も考慮して,小原先生にお話しいただきたいと思います。 小原 JNC VIは,HBPやABPに関して,白衣高血圧の診断,降圧薬の効果,コンプライアンスの改善,低血圧症状,自律神経障害のある場合などに有用性を認めていますが,高血圧が疑われる患者のルーティン検査としては,むやみに使用すべきではないという立場をとっています。 WHO-ISHも,HBPとABPではより日常生活に近い状態の血圧を知ることができ,コンプライアンスの改善や臓器障害の予後の判定に役立つという利点は認めながら,一方では,外来血圧に置き換わるものではないとして,特に診断に関しては慎重な立場をとっています。HBPもABPも予後に関する成績がまだ少ないことと,その値が将来の心血管疾患発症率や死亡率に対して,現時点での外来血圧の価値に勝る情報を提供できるのかという点に関する知見が少ないからです。 正常値,あるいは高血圧の定義自体が,従来の外来血圧とHBPやABPでは異なっています。JNC VIでは,HBPで135/85mmHg以上,ABPでは日中,覚醒時の血圧135/80mmHg以上,夜間,睡眠時の血圧120/75mmHg以上を高血圧としています。WHO-ISHでは,HBP,ABPのいずれも125/80mmHgが外来血圧の140/90mmHgに相当するとしています。 生命予後に基づく基準値としては,現時点では今井潤先生らの大迫研究が唯一のもので,それによれば,心血管系死亡率との関係から,高血圧の基準は135/80mmHg以上になります。 J-MUBAではABPからみた降圧薬の効果をみていますが,バルニジピンを投与すると,高い血圧は下げるが低い血圧は下げないという,理想的な降圧効果が確認されています(図1)。さらに昼間のABPを基準とすれば,外来血圧は治療効果を過小評価したり,過大評価する可能性も示唆されました。 これらの新しい血圧測定方法は有用性が非常に高い一方で,全般的にevidenceが少なく,またどの施設でも使用できるわけではないため,現時点のガイドラインでは,白衣高血圧の診断やコンプライアンス改善の有用性,基準値の紹介に止まっています。今後,J-MUBAのような研究結果が集積されれば,新しいガイドラインに利用できるようになるでしょう。
島本 HBPの基準に関してWHO-ISHでは125/80mmHgとかなり低めですが,これは基準というよりも高血圧の定義そのものといえると思います。それに対してJNC VIでは,135/85mmHgと少し高めになっています。 武田 JNC VIでは,ABPを日中と夜間に分け,さらに細かい規定を設けていますが,WHO-ISHではHBPもABPも一括して125/80mmHgとしています。昨日,日本高血圧学会での発表でも,HBPとABPでは,費用の面でもHBPの方が便利だろうということでした。 HBPを採用する場合,正常値をどこに置いて患者を指導すべきかという問題が出てきます。日常的には,130/80mmHg前後というようにあいまいにしていますが,ガイドラインとしては,HBPのレベルを入れざるをえないと思います。 久代 介入研究のデータは集団レベルの知見であり,外来血圧が指標になります。しかし,個々の患者に応用する場合,外来血圧だけでは白衣高血圧や早朝高血圧を評価できません。 島本 外来血圧に比べて,HBPやABPは画一的に低いのでなく,白衣効果が強く出る人,ほとんどない人,あるいは逆白衣効果の出る人というようにばらばらです。外来血圧の140/90mmHgがABPの125/80mmHgに相当するという関係は出ますが,それを個々に応用できるのか。高血圧の基準は非常にむずかしく,個々の例でみる必要があると思います。 久代 日本のガイドラインにHBPやABPがどのように位置づけられるのか,興味のあるところです。 島本 具体的な数値を上げることができるのか。大迫研究もJNC VIも,HBP,ABPの正常値は比較的高めで,その値を超えていれば,ほぼ高血圧と。それでは,それ以下なら正常血圧かというと,そうではない。そのような意味で,まだまだevidenceが足りないと思います。 久代 白衣効果についても,放置しても問題ないのかどうか,まだ明らかではありません。 島本 HBPやABPで正常血圧値あるいは高血圧の基準を決めるのは,まだむずかしいということですね。 |
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