REPORT 第49回日本腎臓学会学術総会/第51回日本透析医学会学術集会・総会 ランチョンセミナー
Robert J. Desnick氏,成田一衛氏
(左)Robert J. Desnick氏 (右)成田一衛氏
腎臓疾患とファブリー病
2006年6月に開催された日本腎臓学会,日本透析医学会のそれぞれのランチョンセミナーにおいて,ファブリー病に関する日米の研究者による講演が行われた。両講演において,できるだけ早期の治療介入の必要性が説かれた。

秋葉 隆氏,草野英二氏
(上)秋葉 隆氏
(下)草野英二氏
 ファブリー病(Anderson−Fabry disease)はリソソーム蓄積病の一種であり,厚生労働省の特定疾患治療研究事業対象疾患に指定されている難病である。X染色体上にあるαガラクトシダーゼA(α−GAL)遺伝子の異常により,α−GAL活性が不足あるいは欠損し,これにより細胞内のリソソーム中に分解されないグロボトリアオシルセラミド(GL−3:スフィンゴ糖脂質の1種)が蓄積することで,さまざまな症状がひきおこされる。
 古典的ファブリー病は四肢末端の疼痛にはじまり,末梢神経症状,腎不全,心疾患を引きおこすが,心ファブリー病,腎ファブリー病など,心臓や腎臓に限局した症状の発現をみる場合もある。
 このファブリー病の治療には,不足しているα−GALを補うことにより,GL−3の蓄積を防ぐ酵素補充療法が近年行われるようになっている。日本では2004年4月に遺伝子組み換えヒトα−GAL製剤アガルシダーゼベータ(ファブラザイムィ)が保険適応となり臨床で用いられるようになっている。
 2006年6月に行われた日本腎臓学会(東京)では成田一衛氏(新潟大学)により,また日本透析医学会(横浜)ではRobert J. Desnick氏(ニューヨーク大学・マウントサイナイ病院)により,腎臓疾患を有するファブリー病とその治療についての講演が行われた。座長はそれぞれ秋葉隆氏(東京女子医科大学),草野英二氏(自治医科大学)である。

X染色体連鎖劣性遺伝でも女性で発症
 ファブリー病はX染色体連鎖劣性遺伝病である。そのため,この因子を有する男性は必ず発症する。一方,女性でヘテロの場合には発症しないようにも思えるが,酵素活性が低下し症状の発現することがあることが知られている。男性(XY)と女性(XX)では,核内のX染色体の数が異なるため,活性なX染色体が1つだけになるように,女性の場合,2つあるX染色体のいずれかがランダムに不活化される。これを『X染色体不活性化』もしくは『ライオニゼーション』という(図1)。
「これが胎生期におこるため,異常のあるX染色体が活性化された部位においてはファブリー病の症状がみられることになります」(成田氏)。
 ではなぜ,GL−3の蓄積が腎不全,心不全,四肢疼痛などの諸症状をひきおこすのだろうか。Desnick氏によれば「GL−3の蓄積によって細胞内のリソソームが大きくなり,その結果,細胞が肥大化し血管の内腔を閉塞させる」ことによる。これが発汗低下や,食後の虚血による腹痛,あるいは下痢などへつながっている。さらには腎不全,心筋症,脳梗塞などを引きおこすことから,ファブリー病患者の予後は悪く,平均寿命は男性では40−50歳代にとどまっている。
透析例の1%がファブリー病
 ファブリー病の透析患者の多くは40歳前後までに透析が導入されており,その生命予後は糖尿病性腎症と非糖尿病性腎症の中間にあたる(図2, Kidney Int 2002; 61: 249−55)。しかし,腎移植を行うと,移植腎はファブリー病の影響を受けないため生命予後は通常の移植例と同等になる(図3, Transplantation 2000; 69: 2337−9)。
 腎障害を有する患者ではどれだけの頻度でファブリー病患者がいるのだろうか。中尾らの論文によれば,透析例の1.2%(514例中6例)がファブリー病を有しており,さらにそのうち5例(全体の1%)は,腎不全はみられたものの,ファブリー病の典型的症状である発汗低下や被角血管腫はなく,酵素活性も残っていた(Kidney Int 2003; 64: 801−7)。このほかの疫学研究でも透析患者の0.25%から0.5%でファブリー病が見出されていることから,「透析例ではファブリー病のスクリーニングは必須であり,透析室ならば血中の酵素測定も行いやすく,腎臓内科医こそがファブリー病の発見・診断を担うべきである」とDesnick氏は述べた。
 一方で,透析中に酵素補充療法を行っても,透析液中に酵素が排出され,活性が維持できないのではという懸念もあるが,Koschらの論文から透析中に酵素補充療法を行っても酵素活性は低下しないことが示されている(図4, Kidney Int 2004; 66: 1279−82)。酵素補充療法はその処置に数時間かかるが,透析患者においては透析中に並行して行うことが可能であることが示された。
図1 X染色体連鎖劣性遺伝とX染色体不活化
図1
女性の場合,胎生期において細胞ごとに,いずれか一方のX染色体がランダムに不活化される
図2 透析例におけるファブリー病併発,糖尿病併発の生存率解析(1985−1993年)
図2
透析例ではファブリー病の生存率は糖尿病併発例と非糖尿病併発例の中間に位置する。
Thadhani R, et al. Patients with Fabry disease on dialysis in the United States. Kidney Int 2002; 61: 249−55.
図3 ファブリー病患者の腎移植後の10年生存率
図3
ファブリー病の腎移植患者の生存率は,一般の腎移植患者の生存率と同程度になる。 Ojo A, et al. Excellent outcome of renal transplantation in patients with Fabry’s disease. Transplantation 2000; 69: 2337−9.
図4 透析+α−GAL製剤の静注と,α−GAL静注のみ行った場合の血中酵素活性の推移
図4
Kosch M, et al. Enzyme replacement therapy administered during hemodialysis in patients with Fabry disease. Kidney Int 2004; 66: 1279−82.
酵素補充療法のエビデンス
図5 アガルシダーゼβ投与20週後における腎からのグロボトリアオシルセラミドのクリアランス
図5
Eng CM, et al. Safety and efficacy of recombinant human alpha-galactosidase A−replacement therapy in Fabry’s disease. N Engl J Med 2001; 345: 9−16.
 ファブリー病の酵素補充療法のエビデンスのもっとも代表的なものとしては,Desnick氏らのグループによるものがあげられる(N Engl J Med 2001; 345: 9−16)。氏らはファブリー病の58症例にα−GAL製剤もしくはプラセボを2週間ごとに20週にわたって投与し,各臓器からのGL−3のクリアランスをみた。その結果,腎臓,心臓,皮膚におけるGL−3の蓄積は20週後に著明なクリアランスがみられた(図5)。
 その後,α−GAL製剤によるクリアランスが確認できたことから,プラセボ群に対しても実薬を投与し,36か月(プラセボ群は30か月)にわたってα−GALの効果をみたextension studyにおいても有効性が示されている(Am J Hum Genet 2004; 75: 65−74)。
 Desnick氏は今回の講演で,データ未発表の第4相試験についてもふれた。血清クレアチニン値1.2mg/dLから3.0mg/mLの軽度から中等度の腎疾患症例82例で,腎不全,心疾患,脳卒中,死亡などのリスクが酵素補充療法によって61%減少(per protocol解析)したと述べた。この検討のなかで,血清クレアチニン値1.5以下,1.5超,GFR55以上,55未満,UPr/Cr1.0以下,1.0超でそれぞれ比較し,軽度の症状で酵素補充療法を行った場合では顕著なリスクの減少がみられたが,より重度の場合は有意なリスク減少は得られなかった。
「重要なことは早期に,つまり腎障害が起こる前に,酵素補充療法を開始することで,有意なリスク減少が期待できるということです」とDesnick氏は述べている。氏は模式図によりこの効果を示し,早期に治療を開始することでGL−3蓄積による疾患の進展を予防することができるとした(図6)。
 氏らによる診療ガイドラインにおいても(Ann Intern Med 2003; 138: 338−46),男性では末期腎不全を含むファブリー病の全患者で,ヘテロ接合体の女性でも,心臓,腎臓,中枢神経系に症状がでたり,四肢疼痛や下痢,発熱などの症状が出現している場合は,すみやかに酵素補充療法を導入すべきであると明記している。
図6 臨床症状と病態の相関と酵素補充療法の潜在的効果
図6
(Desnick氏作成)
酵素製剤に対する抗体形成と免疫寛容
 さきにのべたextension studyでは,長期のα−GAL製剤投与により,α−GAL抗体が形成された症例についても検討が行われており,たとえ抗体が形成されていても,酵素補充療法が有効であることを報告している。
 同様の検討はLinthorstらによっても行われている(Kidney Int 2004; 66: 1589−95)。α−GAL製剤にはアガルシダーゼβとアガルシダーゼαがあるが,この2剤はアミノ酸配列はまったく同一であり,糖鎖のみが異なっている。ファブリー病のとくに男性患者では,α−GAL活性がほとんどないため,製剤の投与によって中和抗体が形成される。すなわち,投与された製剤の酵素活性が減弱させられる方向に働く。しかもこの2剤により形成される抗体の抗原結合部位(エピトープ)はまったく同一であるため,一方の薬剤に対する中和抗体は,もう一方の薬剤に対しても中和抗体としてはたらく交差反応がみられる(図7)が,50%の症例では免疫寛容により抗体価が減少していた。
 図において示されているように,アガルシダーゼα,アガルシダーゼβの0.2mg/kg投与と,アガルシダーゼβ1.0mg/kg投与では同程度の抗体価を示している。つまりアガルシダーゼβでは高用量投与を行っても,抗体価は上昇せず,より効果があらわれることになる。このことからDesnick氏は,ファブリー病の治療には,低用量ではなく高用量の,すなわち,アガルシダーゼβを1mg/kg用いることを強く推奨している。
 会場からはファブリー病を疑う場合の診断法について質問がでたが,「蛋白尿で来院したらα−GAL酵素も測定してください。それでファブリー病を疑うことができます。腎ファブリー病では,四肢疼痛や被角血管腫などの症状のない場合が多いのです」とし,とくに男性小児で蛋白尿があった場合に,このα−GAL酵素測定の必要性を説いた。
図7 アガルシダーゼαとアガルシダーゼβ投与による抗アガルシダーゼIgG抗体価
図7
Linthorst GE, et al. Enzyme therapy for Fabry disease: neutralizing antibodies toward agalsidase alpha and beta. Kidney Int 2004; 66: 1589−95.
家系調査により,より早期の介入を
 このようにしてファブリー病の発端者を発見した場合,遺伝性疾患であることから,家系調査を行うことが必須である。日本腎臓学会において,成田氏は自身の調査した家系について述べた(図8)。
 調査した家系の発端者は45歳女性。8歳時より顔面の浮腫,12歳の頃より発熱・四肢末端疼痛が出現し,18歳の時に兄2人がファブリー病と診断され,本人にはカルバマゼピンが処方されるようになった。43歳のときに肥大型心筋症と診断され,翌年には慢性腎不全により血液透析が導入されている。このころに,酵素補充療法の治験が開始され,アガルシダーゼβが投与された。その結果,心胸郭比は60%台と変わらないものの,蛋白異化率(PCR)は改善され,dry weightも増加できた。さらにカルバマゼピンが不要となり,抑うつなどの改善もみられたという。
 その後,この発端者の兄(50歳)についても酵素補充療法を開始したが,心機能は改善をみせたものの,腎機能については改善はみられなかった。治療開始時点においてすでに尿蛋白がみられていることから,成田氏は「このように進展してしまった腎障害例では,酵素補充療法による改善は期待できないのではないかと」述べた。
 氏らは発端者(ファブリー病の因子を有するX染色体と正常なX染色体のヘテロ接合体),息子(ファブリー病の因子を有するX染色体とY染色体のヘミ接合体),娘(正常なX染色体)で遺伝子解析を行い,この家系においてはエクソン7のAがCに変異し,コードされるアミノ酸がトレオニン(ACA)からプロリン(CCA)に変異するタイプのファブリー病であることを確認している。ファブリー病の遺伝子変異にはいくつかのタイプのあることが知られているが,この変異はそのなかでもα−GAL活性がもっとも低下するものの一つである。
 現在,同家系の女性や若年男性(7歳,17歳)への酵素補充療法も開始されている。腎不全では,ステージにより酵素補充療法の有効性も異なることが示唆されており,成田氏らの今後の発表をまちたい。
図8 新潟大学で追跡している45歳女性を発端者とするファブリー病の一家系
図8
(成田氏作成)
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