EBM REPORT No.5 2004
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    第2回 Cardiology Frontier > 1.神経体液性因子とβ遮断薬

 

猪又孝元

BNP

猪又孝元

北里大学医学部内科学II講師

 従来,β遮断薬は慢性心不全に対して禁忌とされていたが,2002年末一転してcarvedilolがわが国においても保険適応として認められた。ここではcarvedilolを必要とする多くの症例に本剤をより安全に活用できるように,当科で展開しているBNPガイド管理の実態を紹介する。

BNPによるリスクの層別化
 当科のBNPガイド下入院管理では,BNP値200pg/mL以下を目標に入院継続下で治療強化を進めているが,この管理法の導入により,入院後の心不全増悪による再入院率が半減するとの驚くべき有効性データが得られている。さらに最近では外来管理においてもBNPガイドによる有意な心事故率改善が実証され,BNP測定は慢性心不全管理の基軸とすらなりつつある感がある。

一般的BNPガイドに即さない病態群の把握と個別化の試み
 BNPは心室の壁ストレスに対応して分泌されるが,それ以外の要因もその血中濃度の規定を左右する。BNP測定が一般化した現在,閾値設定での例外をふまえた個別化が今後の課題であり,その一例を紹介するとしよう。

BNPによる収縮性心筋炎の診断
 現在当科に入院中の66歳男性は,両心不全にて2年来,外来で利尿薬・血管拡張薬による管理を続けるも,NYHAはII〜III度でコントロール不十分のままであったが,経過中BNP値は終始50pg/mL前後と低値を持続していた。弁逆流が中等度に認められたが,心収縮能はほぼ保持され,基礎病態は不明であった。今回,胸部CTおよび心臓カテーテル検査による心内圧測定により「収縮性心膜炎」であることが明らかになった。
 そこで当科における過去4年間の収縮性心膜炎による入院患者の患者背景を調べてみると,全例がNYHA IV度近くの高度心不全所見を有しているにもかかわらずBNP値200pg/mL未満であり,一方でノルアドレナリン値は著高を示すという乖離現象がみられた。心タンポナーデではANP産生低下が報告されており1,2),ときに診断に苦慮する収縮性心膜炎も心不全所見とBNP値をはじめとする血中ホルモン値の特異所見が疾患断定のきっかけとして活用できる可能性がある。

肥大型心筋症におけるBNP値の解釈
 当科における外来通院中のBNP値測定患者において, 500pg/mL以上と著高を示すにもかかわらず,ほぼ無症候で安定して外来に通院でき,さらに遠隔期心事故がなかった症例は,すべて非閉塞性肥大型心筋症であった。非閉塞性肥大型心筋症をBNP著高安定群と低値群とに分け,各種臨床所見を検討したが有意な相違点は存在せず,BNP著高をもたらす要因となる臨床指標は見出すことができなかった。

慢性心不全のβ遮断薬療法でのBNPの活用
 慢性心不全管理におけるリスク層別化を可能とするBNPを今後β遮断薬療法に活用していくにあたり,(1)導入の可否の予見,(2)β遮断薬反応例の抽出と有効性予測の2点について検討した。

BNPによるβ遮断薬導入可否の予見
 左室駆出率(LVEF)とBNP値は心機能,心不全の状態を表す臨床指標の代表である。当科でβ遮断薬を導入した慢性心不全127例を導入忍容例と不耐例に分けたところ,導入直前のLVEF,BNP値はともに両群で有意差が認められなかった。しかしながら, 図1 のごとく100pg/mL以下とのBNP閾値設定をすることにより,BNP低値例でのβ遮断薬導入時の心事故発生リスクはきわめて低いことがわかり,導入前に安全導入可能例の抽出要因として有用であることが示された。一方,BNP高値例が必ずしも導入不耐例というわけではなく,BNP>500pg/mLでも11例の忍容例が存在した。その多くはNYHA III度以下の拡張型心筋症であり,volume controlが得られている本症では,BNPが高いからといって「導入できない」という決定要因にはなりえない。

BNPによるβ遮断薬反応例の抽出と有効性予測
 β遮断薬導入後のBNP低下率は左室機能の改善と有意な相関関係があるという報告がある3)。しかしながら,当科での症例をみると導入前にBNPが低い症例では導入後にBNP著変がなくてもLVEFの改善が認められている(図2)。総じて検討すると,導入前後のBNP低下率と左室機能改善度には,有意な相関関係を導くことができず,BNP低下率は必ずしもその後の心機能改善の予測因子とはなりえない。

導入時BNPによる遠隔期予後の予測
 β遮断薬導入時のBNPがより高い症例ほど導入による臨床効果が得られやすいとする報告がある4)
 しかし当科での遠隔期有心事故群の傾向をたどると,導入前BNP値が著高し,1年後のBNP低下度も不良であり,心不全コントロール目標値たるBNP値200pg/mL以下まで達しない(図3)。一方,導入前のBNP値が1800pg/mL,600pg/mLなどと著高しているにもかかわらず遠隔期にBNPが著減し心不全コントロールが著明に改善している例も存在する。そのような症例では導入後BNPは1〜3ヵ月以内に速やかな減少を示す。つまり導入初期の段階でBNPが著しく低下する症例は予後がかなりよいと思われる。

BNPへの過信を避ける
 β遮断薬そのものによるBNP値への影響に関しては,相反するさまざまな報告がなされている。β遮断薬は,心筋産生亢進やclearance receptor減少により血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を上昇させ5,6),さらにβ遮断薬服用中の高血圧例ではBNPが有意に高値であるという疫学調査の報告がある7)。一方で,拡張型心筋症例ではβ遮断薬を含む慢性心不全治療により心臓局所の血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度が有意に減少しているという報告もある8)。しかし,今回述べてきたBNP値はこのようなβ遮断薬の直接的影響を反映するというよりは,心不全のコントロール状況に基づくと考えたほうが無難であろう。
 BNP値は確かにβ遮断薬導入時のリスク評価の一助にはなるが,導入の可否を決定する最終要因にはなりえない。また,β遮断薬導入時のBNP値やその経時的推移が,β遮断薬療法による臨床効果の予測因子になる場合もあるが,その役割は比較的軽微である。当科でのβ遮断薬による非奏効例の特徴の検討によると,その多くにトロポニンT高値と壁菲薄化の傾向が認められた。すなわちBNPのみを過信することなく,病態形成を考えるうえではBNP以外の臨床指標も多角的に絡めて考えていくことが重要であろう。

REFERENCES
1)Panayiotou H, et al. Am Heart J. 1995; 129: 960-967.
2)Edwards BS, et al. Circ Res. 1988; 62: 191-195.
3)Kawai K, et al. Am Heart J. 2001; 141: 925-932.
4)Richards AM, et al. J Am Coll Cardiol. 2001; 37: 1781-1787.
5)Ambler SK, et al. J Mol Cell Cardiol. 1994; 26: 391-402.
6)Christensen G, et al. Circ Res. 1991; 68: 638-644.
7)Luchner A, et al. J Am Coll Cardiol. 1998; 32: 1839-1844.
8)Lowes BD, et al. N Engl J Med. 2002; 346: 1357-1365.

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