EBM REPORT Heart Failure No.2 2003
ROUNDTABLE 慢性心不全の診断・薬物治療・管理におけるベスト・アプリケーション
司会 堀 正二
大阪大学大学院医学系研究科
病態情報内科学教授
堀 正二 北畠 顕 北畠 顕
北海道大学大学院医学研究科
循環病態内科学教授
和泉 徹
北里大学医学部内科学II教授
和泉 徹 永井良三 永井良三
東京大学大学院医学系研究科
器官病態内科学教授
2002年12月,日本でもβ遮断薬carvedilolが国内ではじめて慢性心不全治療薬として使用可能となり, 心不全治療に新たな選択肢が加わることとなった。同時に,診断法も新たなマーカーの有用性が証明され,その進展が著しい。そこで改めて日常臨床における慢性心不全の診断,薬物治療,管理を検証し, QOLと予後の改善をめざしたそれぞれの最適療法をさぐる。
 本日は,慢性心不全の診断,薬物治療,管理におけるべスト・アプリケーションについてお伺いしたいと思います。
 慢性心不全とは心機能障害に基づく症候群で,次第にQOLが低下することが大きな問題となっています。また心機能障害が進むと生命予後が非常に悪くなる疾患でもあります。
 従来,慢性心不全の治療には利尿薬,ジギタリス,血管拡張薬が使われ,それらはQOLの改善に非常に有効であるとされてきました。しかし,ジギタリス以外の経口強心薬はかえって予後を悪くすることがわかり,1980年代の半ばから,それまで血管拡張薬として考えられていたACE阻害薬が登場してきました。慢性心不全の治療目標がQOLから予後の改善に変わったのはそのあたりからです。
 ただ,最近では予後の改善よりもやはり患者のQOLを見直す時期にきているのではないかと多くの先生方が指摘されています。今日はその両側面からお話をお聞かせいただきたいと思います。

診断のベスト・アプリケーション

 まず慢性心不全の病態の診断については,これまで運動耐容能とNYHA心機能分類が,患者の運動能力とQOLを表す指標として用いられてきました。実際,先生方はどのような指標で慢性心不全の病態を診断されているのでしょうか。

北畠 慢性心不全の病態の把握は非常に難しいと思います。現在,うっ血性心不全(CHF)の診断の指標としては心エコー図検査で左室駆出率を測定するのが一般的ですが,場所が循環器専門施設に限られていることもあり,必ずしも全員にこの検査を行えるわけではありません。そこで最近注目されているのがBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)です。昨年米国で発表された疫学調査では,呼吸困難で緊急外来に運ばれた患者1,586例を対象に専門医が心不全の診断を行ったところ,約半数の744例にCHFが認められました。そして心不全を特定するうえでの正確度を検討した結果,「胸部写真上での心拡大」81%,「心不全の既往歴を有する」75%,身体所見中で最も正確度が優れている「肺湿性ラ音」69%,「発作性夜間呼吸困難の既往」60%などを超え,BNPが正確度において最も優れていたとのことです。100pg/mLをカット・オフ値とするとBNPの診断的中率(正確度)は83.4%でした図11)。BNPは心不全の指標としてかなり信頼度が高いといえるのではないかと思います。最近,欧米ではキットで測定できるようになっていますので,今後は臨床でも診断の指標として大いに期待できるのではないでしょうか。

BNPという新しい指標

 和泉先生はBNPにガイドされた慢性心不全の診療を提唱されていますが,心不全の病態をどのように把握されていますか。

和泉 いわゆる心不全という病態を臨床現場で診るときには,患者がACC/AHA分類表12)のどのステージに属するかを考えていきます。まず,機能的な異常だけが生じていて症状がない状態(ステージB)。次に,いくつかの典型的な症状が現れている状態(ステージC)。この患者の多くは薬物療法をはじめとする介入療法によく反応します。そして,治療への反応が鈍くなった状態(ステージD)。この方たちは,たびたび心事故を起こし入退院を繰り返すということを念頭におかなければなりません。臨床現場ではこの3つのステージの患者に分類できると思います。
 いわゆるBNPにガイドされた慢性心不全診療が最も効果的であるのは,心事故を繰り返し起こす恐れのある患者です。この方たちは血漿BNP値が非常に高く,BNP値が高いと心症状が軽微であっても心事故を繰り返す傾向にあります。そこで200pg/mL以下になるように薬物治療や生活指導で介入療法を行うと心事故の発生率を1年間で半減できることをわれわれは証明しています。
 では,血漿BNP値が高いまま推移する方はどうするかについてですが,それは心臓移植や心肺補助循環も含めてなお議論の残るところではないかと思います。
 また,左室機能障害(LV dysfunction)の患者にも血漿BNP値が高い人がいます。BNP値は壁ストレスを反映して上昇しますが,加齢だけでも上昇します。しかも加齢で上昇している場合,BNPは心室筋だけでなく心房筋でも作られるといわれていて,なんら心事故の恐れのないような患者の中にも結構BNP値が高い人が出てきます。この方たちに対してはBNPをガイドにいろいろな介入をするという段階にはなく,黄色信号がつき精査対象に入るというぐらいの意味あいで私は考えています。

永井 心エコーで見て心収縮がよいからといって,心不全ではないと判断される症例がよくありますが,その場合もBNP値が1,000pg/mL以上ということがあります。和泉先生がおっしゃるように,高齢でややBNPが高い方の中にも拡張機能障害あるいは虚血の方が含まれている可能性があるので,そのような症例を見落とさないためにもBNPは役に立つと思います。

 心不全の病態の指標を歴史的にみると,まず1960年代にNYHA心機能分類が予後の規定因子のひとつとして提唱され,次にCohnらにより,血中ノルエピネフリンが予後を反映するよい指標として注目されました3)。そして最近BNPが予後を予測する非常に大事な要素であるといわれてきました。
 そもそも欧米ではコストの高い心エコー図検査が簡単に行えないという事情から,スクリーニングの意味でBNPを測っていたのですね。するとBNPが高い人の中からある程度,左室肥大が検出されることがわかり,次第にBNPが左室肥大の指標とされるようになってきたという経緯があります。日本では心エコー図検査とBNP測定の2つ同時には保険適応が認められないといういきさつもありました(平成14年10月1日より同時測定可能)。
 ただ私たちは,左室肥大よりむしろ左室リモデリングや壁ストレスを反映する値としてBNPを見ていると思いますが,いかがでしょうか。

永井 心不全の病態形成を考えた場合,まず心臓に負荷が加わると適応現象の過程で遺伝子の発現が変わり,肥大や線維化などの形質変換がおこり,そうした負荷適応を繰り返すうちに次第に病態形成が進み,ある時点で臨床的に増悪します。
 BNP値は心臓が形質変換すると上昇し,急性増悪のような強い負荷がかかるとさらに大幅に上昇します。
 一方,ノルエピネフリンはかなり増悪してから数値が上がってくるので,NYHA III,IV度の指標にはなりますが,BNPのほうがもう少し早い段階から,つまり肥大した時点から急性増悪までの指標になるように思います。
 臨床的には,高血圧による肥大や,肥大型心筋症(HCM)では心筋細胞の形質変換が起こっており,これがBNPの上昇に反映されると理解しています。

 北畠先生はBNPをどういう指標と捉えておられますでしょうか。

北畠 以前,心不全の患者さんでカテコラミンとBNPの変化をみてみたところ,両数値は必ずしも平行して推移するわけではなく,交差し,逆方向に推移することもありました。その時にやはり交感神経は末梢血管を含む全身に対する反応であり,一方,BNPは心臓固有の反応ではないかと思ったのです。

和泉 神経ホルモンの反応を知るには,大きくはカテコラミンとRAS(レニン-アンジオテンシン系)の変化を見なければいけないわけですが,流血中にRASのよい指標がないために,カテコラミンだけを見てきたという経緯があります。それに対してBNPは,エンドセリンやカテコラミンなどの血流あるいは組織の中に出ている神経ホルモン因子と交絡していますが,それ以上に私は壁ストレスの影響を強く受けていると思います。ですからHCMなどの壁ストレスがかかりやすいような病態を見定めて,BNPガイド下心不全治療というものを考えていく必要があるのです。HCMの場合,BNPは非常に高くなったり翌日には低くなったりと気ままに変動しますが,それはHCM特有の壁ストレスのかかり方を反映しているのでしょう。一方,急性心筋梗塞では最初とリモデリング時とで2回,壁ストレスがかかりますから,BNPも二段階の上がり方をします。つまりBNPは病態に呼応した動きをするということです。

 BNPは左室リモデリングにより産生される場合と,壁ストレスの増減に応じて産生される場合の両方があるということですね。実際,左室肥大とHCMとではBNPの高さのレベルが違い,スクリーニングで左室肥大を検出する際のBNPはそれほど高くはありませんが,そこに壁ストレスが絡むとずっと高くなるという傾向があります。
薬物治療のベスト・アプリケーション

β遮断薬かACE阻害薬か

 それでは慢性心不全の薬物治療について話を進めたいと思います。心臓への負荷を取り除くには利尿薬がよく効きますし,RASの活性化を抑えるという点で,ACE阻害薬あるいはAII受容体拮抗薬(ARB)が最近の心不全治療薬の代表格になっています。そして心不全治療の切り札として最近登場してきたのがβ遮断薬ですね。そのあたりの経緯について北畠先生にお伺いします。

北畠 心不全に対してβ遮断薬の効果を認めたのは,1975年にWaagsteinらがうっ血性心筋症患者で行った試験が最初ですが4),その後,虚血性心筋症に効果があるという研究はなかなか出てきませんでした。
 その後1996年のU.S. Carvedilol HF Studyの結果に加えて,1999年にCIBIS IIとMERIT-HFの結果が出て,β遮断薬が心不全治療薬として確立されたと思います5〜7)。そこでは特発性心筋症にも虚血性心筋症にも効果があることが認められました。重症度でいうとU.S. Carvedilol HF StudyでNYHA II〜III度を対象としてかなり効果が認められ,2001年のCOPERNICUSでIV度に対しても効果があることがわかりました図28)。さらに2001年はCAPRICORNで急性心筋梗塞後のNYHA I度を含む症例でも効果があることが認められ図39),すべての重症度の心不全に対してβ遮断薬carvedilolのエビデンスが出揃いました。

 ここ数年の大規模臨床試験でβ遮断薬は慢性心不全の軽症から重症まで適応があることが認められてきましたが,ACE阻害薬も軽症から重症まで適応があると考えてよいのでしょうか。
和泉 ACE阻害薬は無症候性から難治性まですべてのクラスで使われている薬剤ですが,日本での使用頻度は意外と低く80%くらいです。4〜5年前のデータでは40%台ですので,心不全と診断されている方でも意外と処方されていないのです。おそらくACE阻害薬は使っていても効果があるという実感がもてないからではないでしょうか。

 それはなぜでしょうか。

和泉 効き目を示すよい指標がなかったからだと思います。しかし,BNPを約2週間おきに測定すると,重症の方である程度の用量をきちんと投与されている方なら反応があります。実際には,きわめて少量しか投与されていないことが多く,日本では適応が認められたACE阻害薬がlisinoprilとenalaprilの2種類と非常に限られているということも,この薬が抱える問題ではないでしょうか。

β遮断薬とACE阻害薬を併用する

 β遮断薬はACE阻害薬とは違う作用をもちますが,共通した部分もありますね。

永井 交感神経の刺激薬はそもそもレニンの分泌を促進します。β遮断薬がRASを抑制するのもわかりますし,ACE阻害薬も交感神経系を抑制します。そういう意味で両剤の作用機序は共通したところがあります。ただ細胞レベルでは互いにさまざまなことが起きていて,β遮断薬ひとつとってもcarvedilolのように抗酸化作用があるのがよいのかどうか,その辺をもう少し煮詰める必要があります。群馬大学の新井昌史氏らの研究によると,metoprololは心筋細胞にある筋小胞体Caポンプに対して作用がありませんが,抗酸化作用のあるcarvedilolやその代謝物を心筋細胞に添加するとCaポンプの発現を上昇させるそうです10)。β遮断薬の中でも抗酸化作用をもつものは,まだわれわれが理解していないメカニズムで心筋の機能を上げている可能性があり,抗酸化作用は重要な点ではないかという気がします。

 確かにβ遮断薬のcarvedilolはACE阻害薬とは一味違う薬剤で,両剤を併用して使うのがいいと思いますがいかがでしょうか。

永井 そうですね。ただβ遮断薬はさじ加減が非常に難しいと思います。病棟で診ていても,β遮断薬が投与されていて心不全が増悪して入院して来られる方が決して少なくないので,臨床医が早めに量を加減するということが重要ではないでしょうか。

 そのことでいつも思うのは,β遮断薬を投与していても心不全が増悪して入院して来られると,β遮断薬が悪いと考えられがちで,ACE阻害薬が悪いとはあまり考えられないのですね。しかしβ遮断薬の効果を考えると,増悪したからといってすぐに切るべきかどうかは迷うことがあります。
 北畠先生はβ遮断薬と他の薬剤をどのように組み合わせて使っておられますか。

北畠 私たちの病棟ではcarvedilolを使うことが多いのですが,最近は脱落例もほとんどなく,少し我慢して使っていると次第によくなるというケースが多くなってきました(CASE REPORT 図1 参照)。BNP値がどんどん上昇して呼吸困難に陥るという症例は,最近はありません。

 うまく増量できるようになってきたということかもしれませんね。それから,いままで投与の順番は最初にACE阻害薬,その次にβ遮断薬と決められていたと思いますが,はたしてその順番を厳格に守る必要があるのかどうかについてはいかがでしょうか。

永井 私自身はまだβ遮断薬,ACE阻害薬の順番を変えるまでには踏み切っていませんが,患者さんの中には容量過負荷(volume overload)がなくやや心臓の動きが激しい方がいますので,β遮断薬を試してみる意義はあると思います。心拍数が高く心機能はそれほど悪くないNYHA II度くらいの方なら,確かにβ遮断薬で心拍数を落とすだけでもよいと思います。

β遮断薬の左室リモデリング改善効果

 2002年の欧州心臓病学会で,軽症の慢性心不全に対するβ遮断薬の効果をACE阻害薬と比較検討したCARMEN試験の結果が発表されました。carvedilol群191例,carvedilol+enalapril群191例,enalapril群190例と,全体で572例なので症例数が十分でなく,評価が難しいと思いますが,しかし生存率は各群でほとんど差がなく,左室リモデリングについては明らかにcarvedilol使用により改善効果が認められました。今まで心不全に対するβ遮断薬単独の効果を検討したトライアルはなかったので,画期的な結果ではないでしょうか。

北畠 私はこれまでリモデリングはRASが関与していると主張してきたので,これはもっと深く分析しないと結果がわからないと思いますが,とにかく結論だけ見てみると意外な気がしました。

 これまでの主な大規模臨床試験から,ACE阻害薬,β遮断薬による駆出率の改善度をそれぞれ平均すると,ACE阻害薬は約4%,β遮断薬で約9%とβ遮断薬のほうが高いのですね。β遮断薬のほうがリモデリングに対する効果が強いというCARMENの結果は,私は納得できるデータだと思いました。今後はさらに大規模に,両薬剤の予後改善効果について比較検討する必要が出てくるでしょう。

AII受容体拮抗薬をどう位置づけるか

 ELITE IIやVal-HeFTなどARBの試験結果が最近いくつか出てきていますが,今後ARBはどのような位置づけになるとお考えですか。

和泉 いろいろと議論のあるところですが,現在はACE阻害薬の投与が困難な症例に対してARBを使うという,つまりACE阻害薬の代替物という位置づけになるのではないでしょうか。しかし私たちの病院に限っていうと,ACE阻害薬を投与できない方のほとんどが糖尿病性腎不全で,その場合,ARBを投与してもクレアチニンの増加などいろいろな問題が出てくるので,ARBを代替物とするというのはなかなか難しいと思っています。ARBのすべてが臨床試験で検討されているわけではないので結論を出すのは早いと思いますが,現段階ではそういわざるを得ません。

 Val-HeFTでは,ACE阻害薬とARBの併用で生命予後は改善しなかったけれども,心不全の悪化による入院は減少したという結果でした図411)。併用療法はよいが,それほど劇的に改善するわけではないという印象でしたが,永井先生はどのように考えられますか。

永井 Val-HeFTの結果は,心不全の予後の悪い欧米人での結果だということを考慮する必要があります。予後のよい日本人では欧米人ほど併用療法の治療効果がみられない可能性もありますので,改めて日本人での研究が必要でしょう。

利尿薬はベースに入れておくべき薬剤

 利尿薬は昔から心不全の薬として使われてきましたが,なかでもspironolactoneはRALES試験で予後の改善効果が認められています12)。心不全治療における利尿薬の位置づけはどのようにお考えですか。

永井 私はやはりベースに入れておくべき薬剤であると思います。最近の経験ですが,ACE阻害薬+利尿薬でずっと治療していた軽いMR(僧帽弁閉鎖不全)の心不全患者が,ある理由からご自身で利尿薬だけやめていたところ,かなり短期間に増悪したということがありました。ACE阻害薬とβ遮断薬が注目されるといっても,慢性うっ血性心不全の患者さんにはやはり利尿薬が必要だと考えています。
 ただあまり使いすぎると腎機能を非常に悪くしたり,RASをかえって賦活化させたりするので,そこも状況を見ながら判断しないといけません。カリウムの低下を防ぐためにspironolactoneをうまく使っていくことも必要だろうと思います。

 現在,spironolactoneの次のカリウム保持性利尿薬として開発されているepleneroneは,女性化乳房のような副作用がなく,カリウムを保持してしかもアルドステロンを抑制するという使いやすい薬です。ループ利尿薬とあわせて使うと症状をコントロールしやすいかもしれません。利尿薬はQOLを改善するにはよい薬であることは間違いないですね。

和泉 心不全の病態とは,基本的には水の管理の問題だということになると,塩分と水分の摂取が多い日本人の食生活,文化的背景を考えた場合,やはり利尿薬を上手に使うということは,そうした文化を守り,患者の満足度を増すという点でも非常に大切なのではないかと思います。現在のループ利尿薬は患者にとって非常に酷だと思います。私は飲んでみたことがあるのですが,それはそれは不愉快な思いをして大変でした。とにかく利尿薬は排泄という行為に負担を伴います。ましてやお年寄りはひとつの行動をとるのにも時間がかかるので,もっと効き目が穏やかな薬剤をそろそろ考えていくべきだと思います。
堀 確かに利尿薬を投与している方で「外出する日は薬を飲みません」という患者さんがいらっしゃいますから,そういう方が結構おられることを私たちは知っておかなければいけないですね。

使いやすい薬,使いにくい薬

 薬のコンプライアンスという点も含めて,どういう薬が使いやすく,どういう薬が使いにくいとお考えでしょうか。

北畠 やはり長時間作用型で,飲む回数の少ない薬がよいと思います。

 1日1回ですね。

和泉 コンプライアンスの良し悪しは患者のサポーターによって決まります。同居している家族が服薬をどう管理しているかというのは非常に重要な点で,逆にその方たちがコントロールしやすいような服薬内容,つまり1日1回のものにするとか種類をなるべく少なく簡便にするといった内容に切り替えることが大切だと思います。心不全患者は一般的に年齢が高いので,患者自身が服薬を忘れる,飲んだか飲まなかったかを忘れるということがあります。そこに気がつく人が周りにいるかどうかがポイントではないでしょうか。

 コンプライアンスという点でβ遮断薬はいかがでしょうか。

永井 β遮断薬を降圧薬として使うときは,足がだるいといった副作用でQOLが悪くなる患者さんがいましたが,心不全ではどうでしょうか。

 心不全の方の場合は量も少ないので,高血圧の方のようにうつ症状やインポテンツもそれほど問題にはならないですね。副作用という点ではむしろACE阻害薬の空咳でしょうか。

和泉 ACE阻害薬の空咳も軽い人は訴えるし,重い人はあまり訴えません。

 そういう傾向はありますね。

永井 ACE阻害薬でもβ遮断薬でも,患者さんはこのごろ家庭で血圧をよく測っておられて,「血圧が少し下がった日は調子が悪い」ということをずいぶんいわれますので,そういう時は「血圧を見ながら薬の量を多少加減してください」とお話ししています。
管理のベスト・アプリケーション

運動療法は強力な武器

 先生方は慢性心不全患者の運動については,どのように指導しておられますか。

和泉 いろいろなことを総合して考えると,運動療法は強力な武器だと思いますが,2つ問題点があります。まずコンプライアンスが薬物以上に悪いこと。つまり半年くらいは続くけれど,1年続く人がほとんどいないということ。それから運動量の上限の設定が非常に難しいこと。私たちの病院でもリハビリチームが行っていますが,薬物療法がきちんと設定されてから運動療法を設定していくという過程には,まだ挑戦的な課題が含まれていて,ただ「運動しなさい」というだけではうまくいかないと思っています。

永井 頻脈がずっと続いていて,心不全で喘息や肺気腫がありβ遮断薬が使えない患者さんには運動療法は大事だと思います。次第に心拍数の上昇を抑えられる可能性はありますので,心拍数を見ながら運動量を指導しています。

北畠 「散歩などをしっかり行ってください」ということをいいますけれども,科学的な根拠があまりありません。日本のスポーツ医学が発達していないせいにしてはいけないと思いますが,エビデンスがないので「こういう運動は必ずやってください」ということがいえないのです。自分の主観的な感覚で患者さんに勧めるだけで,根拠のないところが問題だと思っています。

和泉 体重の管理にしても,私たちの病院で1日7gに塩分を制限した食事を栄養士に1週間食べてもらったところ,1週間後には「もう先生やめさせてほしい」といわれました。それくらいつらいことを私たちは患者に強要しているわけですから,もう少し食事のことも考えていかないといけません。
 また,慢性心不全には実はもうひとつ睡眠障害という問題があり,半分くらいの患者は睡眠時に中枢性の無呼吸に陥っています。そうすると朝起きたときに熟睡感がなく,これを改善するだけでもQOLはずいぶん違ってくると思います。

 そうですね。睡眠中の無呼吸によって血中の酸素飽和度が夜中に低下していることがあり,その場合は在宅酸素療法が有効なことがあります。またこの無呼吸による血中酸素飽和度の低下は交感神経活性の亢進を引き起こし,睡眠障害では交感神経系が活性化されやすく,それが心筋障害を進める因子のひとつであることも指摘されています。確かに在宅酸素療法というのはQOLを改善するひとつの手だてになるかもしれません。

病診連携でQOLを改善

 心不全で入院して来られた患者さんがある程度よくなり,また開業医の先生にお返しになるということも多いと思います。そうした日常の病診連携において何か注意をされていることがありましたら,お聞かせください。

和泉 私のところでは病院が私立だということもあり,QOLの問題をかなり精力的に考えていきます。いまの医療は,β遮断薬の導入に成功した,ACE阻害薬を投入した,手術が完璧にできたといった医者の満足度が優先され,患者の満足度は二の次になっています。先ほど申しましたが,利尿薬を投与して体重がコントロールできても,患者は頻尿に悩んでいて,そのほうが深刻な問題になっていたりします。そこでそうした問題を解決するために,私の病院では長期にわたる管理システムとして「ゆうゆうクラブ」というシステムを作りました。まず1年間は通常の外来治療を行って,そこで落ち着いた方々を開業医の先生に紹介して,開業医の先生からは1年に1回相談を受けるようにしています。
 慢性心不全の患者さんに限っては,やはり「体重が数日で2kg以上増えたら注意してください」「BNPが200pg/mLを超えたらもう一度私たちの病院へ戻してください」「薬を変える必要がある場合はどうぞ私たちにご相談ください」というメッセージを開業医の先生にお伝えしています。まだ日が浅いのでデータにはなっていませんが,こうしたシステムによる患者の満足度,つまり患者自身がいま満足のいく生活ができているのかどうかという調査を,順を追って行っていきたいと考えています。
 また慢性心不全の場合,患者自身のQOLと家族のQOLの2つがあります。ACE阻害薬やβ遮断薬により,心事故の発生が抑制されると入院や外来の回数が減り家族の負担が減る,つまり家族のQOLが上がるということは間違いないですね。たとえばBNPが落ち着いている患者なら2,3ヵ月ごとに診察して,あとは「24時間365日いつでも引き受けます」というメッセージだけ伝えておけば大きな問題はありません。

 QOLの指標として,海外はわりと運動耐容能を測りますが,わが国ではあまり測りませんね。特に6分間歩行程度なら患者さんにも負担にはならないので,QOLの指標として実際に測定して定量化しておく必要があると思います。確かに患者さんはQOLが実際よくなっているのかどうかはあまりわかっていないし,医師もあまり見ようとしていないことは事実です。予後については本人も医者もなかなか見えず,ある日突然わかるわけで,一方,QOLは毎日のことですから,これからはQOLにも少し目を向けていく必要があると思います。
 最後に申し上げたいのは,ACE阻害薬もβ遮断薬も実はQOLの改善という点では強力な薬ではないということです。ACE阻害薬を投与して予後は改善しますが,患者も医師も手応えがないというのは,QOLが上がらないからです。予後というのは大規模試験ではじめて出る数値であって,個人にとって予後がどうなるかなどわかりません。「投与したからあなたは寿命が延びました」といっても,「服用していなければもっと長生きしたかもしれない」という水掛け論になってしまいます。β遮断薬もエコー図検査で駆出率が改善するため,何となく患者さんも医師も満足しますが,これまでのデータを見る限り運動耐容能はそれほど改善していません。ですからQOLという点では,むしろジギタリスのほうがよいかもしれないですね。
 本日は慢性心不全の日常診療における診断,薬物治療,管理のベスト・アプリケーションについてお話を伺いました。どうもありがとうございました。
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