EBM REPORT Heart Failure No.1 2002
ROUNDTABLE 慢性心不全治療のState of the Art
司会 堀 正二
大阪大学大学院医学系研究科
病態情報内科学教授
堀 正二 半田俊之介 半田俊之介
東海大学医学部内科学教授
小川 聡
慶應義塾大学医学部
呼吸循環器内科教授
小川 聡 横山光宏 横山光宏
神戸大学大学院医学系研究科
循環呼吸器病態学分野教授 
β遮断薬には陰性変力作用があるため,長らく心不全治療に禁忌とされてきた。しかし,1970年代にWaagsteinらが拡張型心筋症に対するβ遮断薬の心機能・症状改善効果を報告して以来,欧米では数多くの大規模臨床試験によってβ遮断薬の予後改善効果が確かめられてきた。 わが国においてもMUCHA試験を経て,carvedilolがβ遮断薬としてはじめて慢性心不全の適応を取得することとなった。 ここでは,β遮断薬を中心にこれまでの心不全治療の変遷をたどりつつ,集積されたエビデンスと今後の課題・展望を明らかにする。
β遮断薬療法のはじまり

 わが国でも近々,慢性心不全に対するβ遮断薬療法としてcarvedilolが承認される予定です。
 心不全に対するβ遮断薬療法は,最近かなり浸透してきたように思いますが,そもそも1975年にスウェーデンのWaagsteinらがBritish Heart Journalに報告したのがはじまりでした。そこで,まずβ遮断薬療法が少しずつ根づいてきたプロセスについてお伺いします。

半田 当時,心不全の治療というと循環動態を改善することが第一で,そのためには心筋の収縮性を高めること,前負荷,後負荷,心拍数を調節することが治療の主体でした。ところが1975年にWaagsteinらが,頻拍で狭心痛のあるうっ血性心筋症患者にβ遮断薬のpractololを使って,心機能が改善され心不全症状が軽減したという,当時の心不全治療の常識を覆す論文を発表しまし1)。対象はたったの7例でしたが,それがβ遮断薬療法の最初です。彼は卒業したばかりの若い医師で,そのように無茶な治療をしたことでボスにひどく怒られたそうですが,それが端緒となって,今日の心不全に対するβ遮断薬治療の幹が造られたとすることができます。
 以降は,Waagstein,Swedberg,Fowler,Anderson,Engelmeier,Heilbrunnらが主にmetoprololを使った臨床研究を10数例規模で行い,よい結果を出しています。しかし二重盲検無作為試験ではないのでエビデンスとしては弱いという時代が長く続いてきました。

β遮断薬療法,検証の80年代

 私もWaagstein先生に,心不全治療になぜβ遮断薬を使い始められたのかを聞いたことがあります。彼が言っていたのは,心筋梗塞患者の二次予防にβ遮断薬がよいことはすでに確立していたので,心筋梗塞で心不全を合併している症例に使ってみると,非常によいという印象をもち,さらに心筋梗塞でない拡張型心筋症患者に使いだしたということです。
 その後,'80年に今度は,β遮断薬を中止すると症状が悪化するという論文が出て2),'84年にはβ遮断薬治療により心臓移植への移行例が減少したというスタンフォード大学のデータがAHAで発表されました。当時,人々はまだβ遮断薬に対して懐疑的でしたが,ヨーロッパに次いで,米国の施設でもよいデータが出たということで,多くの人たちがショックを受けると同時に,β遮断薬に非常に興味をもちだしたように思います。
 結局80年代は,心不全に禁忌とされていたβ遮断薬を少量から始めるという治療法が検証されていったのですが,それを臨床的に確立するまでにおよそ10年かかってしまったという気がします。また,80年代はβ遮断薬よりもむしろxamoterolやprenalterolなどのβ作動薬のトライアルが,いくつか小規模に行われました。それがことごとく予後を悪化させたという反省から,β遮断薬が非常に注目されるようになったのではないでしょうか。β作動薬の失敗がβ遮断薬の追い風となり,いよいよ90年代に入り,β遮断薬の作用を確かめるために臨床試験が始められたということだと思います。

大規模臨床試験の時代へ

横山 心不全に対するβ遮断薬の臨床試験もはじめは,少数の症例で症状,運動耐容能,血行動態といった生理学的な指標によって薬剤の効果をみていましたが,90年代になって生命予後に対する効果が焦点となってきます。'93年にWaagsteinらは,MDC試験でmetoprololによる拡張型心筋症患者の生命予後と心移植に対する効果を検討しまし3)。そこでは症例数が383例と少なく,生命予後を改善するという結論には至りませんでした。'94年に発表されたCIBIS Iも,bisoprololの死亡と入院とに対する効果を検討しましたが,やはり総死亡に関しては統計的有意差が出ませんでし4)。しかし'96年に1094例を対象とした無作為二重盲検,4つの合同臨床試験のU.S. Carvedilol Heart Failure Study5)の注目すべき成績を経て, '99年には2647例の心不全患者を対象としたbisoprololを用いてのCIBIS II6)と,3991例の心不全患者でのmetoprololを用いてのMERIT-HF7)で,はじめて心不全による死亡がβ遮断薬治療で有意に減少することが証明されました(DATABASE参照)。

 '96年のU.S. Carvedilol HF Studyは現在の結論的なことをいう突破口になったスタディのひとつですね。ただあの試験は,運動耐容能でグループを分けて,後にデータを一緒に解析しているので,ひとつひとつのプロトコールは比較的小規模なスタディでした。しかし全部集めてみると全死亡のリスク低下が65%と非常によいデータが出たので,そこでcarvedilolが一躍注目されるようになりました。そして'99年以後,CIBIS II,MERIT-HF,COPERNICUSなどさらに大規模な試験が行われた結果,慢性心不全の治療薬として,軽症から重症までβ遮断薬が有効であるという結論が得られたというわけですね。

半田 それらの大規模臨床試験では生命予後の改善のほか,自覚症状の改善,入院頻度の減少という結果が得られました。いずれも根底にはβ遮断薬による心筋収縮能の改善があると思います。

小川 これまでの試験を年代順に並べてみると,β遮断薬の種類やプロトコールがいろいろと変えられてきているのがわかります。それから疾患によって結果が不一致な部分があり,CIBISではどちらかというと梗塞後の心機能障害の例にはあまり効果がなく,拡張型心筋症の例に効果があるという結果が出ましたが4),CIBIS IIではそうした差がないという結果でし6)。U.S. Carvedilol HF Studyでは,梗塞後の心機能障害にも拡張型心筋症にもほぼ同じように効くのではないかという結果が出ていま5)
 β遮断薬は疾患によって効き目に差があるということともうひとつ,突然死に関して'93年のMDC試験以来いろいろな議論があり,いまではほぼ心不全死と突然死の両方を抑えるだろうという結論になっています。

β遮断薬に求められる薬理作用

 β遮断薬のどういう性質が,心不全治療によいと考えられてきたのでしょうか。

横山 いちばんはじめは確かにpractololから始まりましたが,まずは第一世代のβ遮断薬として,β1非選択性でISA(内因性交感神経刺激作用)のあるものが試されました。pindololはその代表です。しかしそれではかえって死亡が増加する,もしくは効果がないということで,ISAをもたないβ遮断薬のほうがよいということがわかりました。
 第二世代のβ遮断薬は,metoprolol,bisoprololに代表されるβ1選択性のもので,非選択性の薬剤との比較が行われました。これはいまだに結論が出ていないと思いますが,少なくとも,β1受容体を遮断すると生命予後が改善され,また心機能・自覚症状等の改善が認められるということは明らかになっています。
 第三世代のβ遮断薬は血管拡張などの付加的な作用をもち,その代表であるcarvedilol,bucindololが慢性心不全の治療に使われるようになりました。carvedilolは非選択性でβ1,β2,α1受容体を遮断し,ISA作用をもちません(表1)。bucindololは弱いISA作用を示す非選択性β遮断薬です。いままでのデータでは,carvedilolは少なくとも第二世代と同等かそれ以上の効果がありそうだということがわかっていますが,β1受容体以外にβ2受容体,α1受容体を遮断することが本当に心不全の改善に役立つのかどうかについては,まだ意見がわかれるところです。

半田 現在エビデンスがそろっているのはβ1選択性のmetoprololと,αβ遮断作用のあるcarvedilolの2つの薬剤だと思います。両剤の優劣を比較したはっきりとしたエビデンスはありません。近い将来,COMET8)の結果が出るといわれています。そこでcarvedilolとmetoprololの差や,両剤の使い分け方などについて答えが出るのではないでしょうか。ただ自分自身の少数例の経験からいうと,どのβ遮断薬を使っても上手に使えばうまく治療できるというのが感触です。

軽症〜重症心不全まで 予後を改善

 ACE阻害薬については,SOLVD予防試験でNYHA I〜II度,CONSENSUSでNYHA IV度が登録基準でしたので,心不全に対するエビデンスは軽症から重症までほぼ確立されたと思いますが,β遮断薬についてはいかがでしょうか。

横山 β遮断薬については,CIBIS IIでNYHA III〜IV度・駆出率35%以下,MERIT-HFでNYHA II〜IV度・駆出率40%以下が対象でしたが,いずれもIV度の症例が非常に少なかったため,NYHA IV度ないしは駆出率が25%を切るような重症心不全患者について,さらなる検討が必要でした。
 昨年,COPERNICUS9)BEST10)の結果が発表されました。COPERNICUSでは,駆出率25%未満を登録基準とし,carvedilolを用いた結果,実薬群で死亡が35%減少,死亡または入院の複合イベントも24%減少と,有意な値が示されました。bucindololを用いたBESTは駆出率35%以下が登録基準で,結果は実薬群とプラセボ群で死亡率に差がありませんでした。その理由について薬物の種類による差や患者の人種的な違い等,さまざまな面から検討されていますが,実際のところはまだよくわかっていません。

 COPERNICUSによって,β遮断薬はNYHA IV度の重症例でもリスク低下が認められるというデータが揃ったと思います。平均駆出率をみるとU.S. Carvedilol HF Studyは23%,CIBIS IIが28%,MERIT-HFが28%,COPERNICUSが20%です。死亡のリスク低下はCIBIS II,MERIT-HFで34%,COPERNICUSが35%ですので,あまり重症度には関係なく同じくらいの効果があるという印象です。

小川 大事なことは,重症心不全を含むトライアルで,ACE阻害薬を含めた内科的治療をすべて行った上でもなおかつβ遮断薬の有効性が確認されている,ということですね。それが証明されたことは意味があると思います。

 確かMilton Packerのまとめによると,いままでのトライアルすべてのリスク低下を総合するとβ遮断薬は35%,ACE阻害薬は18%です。ACE阻害薬に上乗せしてさらに倍近い効果が出ているという意味では,β遮断薬は予後改善の点で非常に優れた薬剤であると思われます。また,β遮断薬は投与していると収縮能が改善し,駆出率はACE阻害薬が平均で約4%改善するのに対し,β遮断薬は8〜9%と大きく増加します。その結果,心機能も予後も改善され,その中で突然死が抑制される部分もかなり大きいようです。いずれにしても,最近のβ遮断薬の試験で,軽症から重症まで予後の改善,突然死の抑制,心不全の改善がみられるというのは,ほぼ間違いない結論だと思います。

β遮断薬の使い方をめぐって

半田 Val-HeFTでは,AII受容体拮抗薬(ARB)のvalsartanとACE阻害薬を併用している症例にβ遮断薬を使うとかえって結果が悪くなっていま11)。RAAS(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)に作用する薬剤にβ遮断薬を上乗せしていけば心不全の治療によい,という単純なものでもないということでしょうか。

 私はむしろあの結果は,ACE阻害薬とβ遮断薬の併用はあまりに効果が大きいので,その上にARBを乗せてもさらなる伸びが得られなかったのではないかと思いました。

半田 つまりトータルとして効きすぎということですか。

 効きすぎというよりは,予後を改善するという点でACE阻害薬とβ遮断薬ですでに十分な効果が出ているので,その上にARBを上乗せしてさらに予後を改善するというのは,効果として非常に少ないのではないかと思ったのです。

半田 ACE阻害薬とARBは同じRAAS系統に作用する薬剤です。β遮断薬は全然違うとなると,RAASを徹底的に抑えたところにβ遮断薬が加わるのは望ましくないとも言えないでしょうか。エビデンスがあるから併用療法がよいという単純な理解ではいけないと反省しました。

 なるほど。完全にRAASを抑えた上にβ遮断薬で抑えるということに若干のリスクがありはしないか,というご指摘ですね。確かにそういう可能性は念頭においておかないといけないかもしれません。
 β遮断薬療法におけるもうひとつの特徴として,導入が全員スムーズにいくわけではなく,どうしても脱落例が出てしまうという点があります。U.S. Carvedilol HF Studyでは,試用期間を設けていて,そこで忍容性のある症例が実際に試験に組み込まれています。しかしCIBIS IIには試用期間がなく,しかも外来のNYHA III〜IV度の患者を対象としていました。

半田 COPERNICUSも試用期間がなかったですね。

 そうですね。われわれの感覚からするとかなりリスキーに思えるので,仮に日本で同じように行ったら相当反対にあうでしょう。それでも脱落率は,導入期と維持期を合計して13%前後です。導入期だけなら脱落率は8%と全体の1割にも満たないので,もっとゆっくり導入すればさらにいいデータになるかもしれないと思います。

半田 適応する時間がもう少しあればよいのではないかということですね。

MUCHAが示す日本人におけるデータ

 日本で行われたMUCHA(Multicenter Carvedilol Heart Failure Dose Assessment)Trialについて,半田先生にお伺いします。

半田 ここにおられる先生方は,みなさん何らかの形でこの試験に関与しておられます。MUCHAは日本ではじめて慢性うっ血性心不全患者に対するβ遮断薬,carvedilolの効果を検討した無作為二重盲検,プラセボ対照,多施設の試験で12)。MUCHAというトライアル名は,carvedilolの製品名アーチスト
をもじって,芸術家(アーチスト)であるチェコの画家のミュシャ(Alphonse Mucha:1860-1939)からきています。
 症例数は173例で,欧米の1000例規模のトライアルと比べると一桁少ないのですが,1日20mg(分2)群,1日5mg(分2)群,プラセボ群の3群に分けて約1年間追跡しました。
 厚生労働省の規定により一次エンドポイントは全般改善度(global improvement rating)ですが,二次エンドポイントは世界的に使われている,さまざまな原因による死亡,あるいは心血管系の理由による死亡ないし入院,心不全の悪化による入院,左室駆出率の変化,NYHA心機能分類の変化,それから篠山先生のご意見でSAS(specific activity scale)も調べました。
 登録基準は,安定した状態の拡張型心筋症ならびに虚血性心筋症,NYHA II〜III度です。IV度は残念ながら入っていません。駆出率は40%以下です。
 先ほど適応させるために導入はゆっくりというお話が出ていましたが,この研究ではcarvedilol 1.25mgを1日2回から開始して,2.5mgを1日2回にまで増量し,1ヵ月ほど追跡します。その時点で忍容性がある症例を3群に無作為化して,1日20mgまで増量する77例,1日5mgまで増量する47例,プラセボの49例の3群を比較しました。
 患者特性について3群間に差はなく,ほぼ80%の症例ですでにACE阻害薬,利尿薬,ジギタリス薬が投与されていました。年齢は60±10歳です。

 結果は,1日20mg群で全般改善度がプラセボ群に比べて有意に高く(図1),すべての心血管系の理由による死亡ないし入院の相対リスク低下が1日20mg群で80%,1日5mg群で70%(図2)と,欧米の報告に比べて投与量が少ないにもかかわらず,非常によい成績が出ました。すべての心血管系の理由による入院もそれぞれ85%,85%のリスク低下,心不全の悪化による入院もそれぞれ88%,91%のリスク低下,というすごい成績が出ました(表2)。左室駆出率もプラセボ群に比べて1日20mg群で改善が得られています(図3)。プラセボ群でもこの治療期間に駆出率が7%ほどよくなっています。服薬による副作用は,プラセボ群とcarvedilol群で差がありません。
 まとめると,日本人のNYHA II〜III度の慢性うっ血性心不全患者で,その病因が虚血性ないしは拡張型心筋症の場合は,carvedilolの投与量に応じて,用量依存性に心機能の改善,それに伴う臨床病態の改善が得られたということ,そして最初は非常に少ない量で投与を開始し,徐々に上げていくことがきわめて大切であるということです。
 MUCHAの手本とした米国のMOCHA13)と比較すると,脱落率はそれぞれ9.8%,8.2%でした。駆出率の改善もほぼ同様で似た数字になっています。入院に対する影響をみると,MUCHAでは投与した例のほとんどが再入院しなくなったという,驚くほどの改善が得られています。
 全般的には,米国よりも日本のデータのほうがよい結果が出ているといえます。

 MUCHAで非常によいデータが得られたわけですが,日本の場合,若干軽症の症例が登録されているということと,医療機関のケアがよいということが理由かもしれませんが,死亡率が低いためにその評価ができないのですね。

半田 現時点では,悪化による入院の数が減ると死亡も減るのではないかという,サロゲート・エンドポイントの考え方で仕方がないとも思います。死亡に関するエビデンスを得るためには,数千例規模の試験を行わなければなりません。

日本人と欧米人との違い

横山 欧米と比較すると,やはり人種による差が明らかですね。MUCHAは平均駆出率30%と,CIBIS IIほか欧米の試験とほとんど差がないのに,死亡率は欧米よりも低いというわけです。これは日本人における心不全の特徴のひとつを表していると思います。それから基礎疾患も拡張型心筋症などの非虚血性のものが虚血性のものより3倍くらい多いですが,欧米は1対1くらいです。欧米よりも日本のデータがいいという理由に,そうした人種による病因,病態の違いもあるのではないかと思います。
 あと非常に印象に残っているのは,投与量が1日5mgと20mgの2種類があり,1日5mgというのはかなり少量だと思うのですが,それでも心血管イベント,入院が著明に減っているということです。

半田 これを発表したときに,香港のSandstrom先生が,中国人では1日50mgのβ遮断薬療法を行ってうまくいっている,ただし試用期間の脱落率は16%と多くなるとおっしゃっていました。ですからMUCHAの最大20mgという量は,日本人ではちょうどよい用量かなという印象をもちました。増量すればさらに効果が得られるはずで,用量依存性にさらに高用量を使ってもよいのではないか,という議論も残るとは思います。しかし脱落率も増えるでしょう。

 そうなのですね。投与量についてはなかなか結論が出しにくいのです。私も以前,MOCHAとMUCHAで駆出率と投与量の関係がどうなっているかを見たことがありますが,MUCHAは投与量20mg(分2)で駆出率の伸びが13.2%,MOCHAは25mg(分2)で駆出率の伸びが10%なのです。
 これだけ単純にみると,欧米の半分の投与量で同等の駆出率の改善がみられているので,日本は欧米の半分の投与量でよいのかなという気もしますが,問題はMOCHAでプラセボ群における駆出率の伸びが2%なのに対し,MUCHAでは7%なのです。これをどう解釈するかが問題です。おそらく日本人と欧米人の体重の差ということもあると思いますが,絶対値とプラセボの差分が真値だと考えると,日本人は本当に欧米人の半分でよいのかどうかはまだ若干疑問が残ります。

横山 そうですね。心不全に限らず狭心症や高血圧に対するβ遮断薬の投与量は,日本人の場合,欧米の2分の1か3分の1ですね。それで同等の効果が出ますので,やはり日本人のβ遮断薬に対する感受性の問題と,薬物動態が欧米とは違うということではないでしょうか。

β遮断薬はなぜ心不全に効くのか

 β遮断薬が心不全に効く理由として,どのような作用が考えられるでしょうか。

横山 これまでいくつかの機序が考えられてきています。ひとつはβ遮断薬による心拍数減少効果で,それによりエネルギー効率の改善や心筋虚血の改善がもたらされます。もうひとつはβ受容体のダウンレギュレーションによるカテコラミン感受性の低下をβ遮断薬が改善するということですが,carvedilolはβ受容体のアップレギュレーションを起こさないことが明らかになっているので,この機序は主体ではありません。また,β遮断薬による左室拡張機能の改善ですが,これは拡張期における左室充満時間の延長によってもたらされるということで,徐脈効果にリンクしています。
 他に,β遮断薬はカテコラミンによって生じる心筋毒性つまり心筋内の活性酸素種の産生やCa過負荷を抑制し,カテコラミンによる催不整脈作用を抑制します。
 また,交感神経活性の亢進はRAASを賦活化させ,アンジオテンシンによる心筋障害を起こしますが,β遮断薬はRAASの抑制を介して心筋障害を抑制し,心臓の前負荷および後負荷を軽減させます。
 さらに最近,β遮断薬の作用メカニズムとして重要とされているのが左室リモデリングの改善効果,もしくは左室リモデリング発生の抑制です。実際に心不全モデル動物にβ遮断薬を投与すると,左室腔の縮小,左室壁重量の減少,左室収縮力の改善,左室形状の変化といった左室リモデリングの改善効果がみられることが証明されています。そのひとつのメカニズムとして,カテコラミンはβ1受容体と結合して心筋細胞のアポトーシスを起こしますが,β遮断薬はこの結合を抑制することで心筋細胞の脱落を防ぎ,左室リモデリングを抑制します。
 またβ遮断薬は,βARK(心筋βアドレナリン受容体リン酸化酵素)によるβ受容体のリン酸化を抑制してβ受容体刺激に対する脱感作を改善し,心機能を維持するということが明らかにされています(表3)。

半田 不全心筋では心拍数が上がるほど収縮力が低下するので,β遮断薬で心拍数を下げて収縮力を改善するという説があります14),それについてはいかがでしょうか。

横山 CIBIS IIのサブ解析15)でもβ遮断薬による心拍数減少効果の予後への影響について分析していて,心拍数の減少は非常に重要であるという結論を出しています。実際,動物で頻拍ペーシングによって心不全モデルが作れるように,やはり心拍数が早い状態が持続するということは心筋に対して非常に悪い作用を及ぼしていると思います。

β遮断薬の抗不整脈効果

心不全例の突然死を予防する

 小川先生,心不全例の30〜50%が突然死を起こし,20〜30%が心房細動を合併していると言われていますが,それに対してβ遮断薬はどの程度有用なのでしょうか。

小川 突然死のことから申しますと,抗不整脈薬のamiodaroneを使って心不全例の突然死を予防しようというスタディが山のようにありますが,amiodaroneはメタアナリシスでかろうじて予防効果が認められる程度です。新しいピュアなKチャネル遮断薬のdofetilideを使ったデンマークのDIAMONDという試験がありますが,そこでも予後改善効果は認められませんでした16)。そういうデータと比較すると,心不全の突然死に対するβ遮断薬の効果というのは非常に驚異的ですね。
 そこで,心不全例で突然死が起きるメカニズムですが,拡張型心筋症でも心筋梗塞でも交感神経の除神経の領域が広ければ広いほど突然死を起こしやすいというエビデンスがあります。交感神経の除神経が心筋の中での不応期の不均一性の原因になっていて,それが心室細動の引き金となる大きな要素と考えられます。除神経された領域では活動電位の持続時間が平均的には延びています。つまり不応期が長くなっています。それが全体に均一に延びているわけではなく,ある部分は除神経されているけれど,ある部分は正常の神経支配を受けている,またその中間的な部分もある,あるいはdenervation supersensitivityという異常な反応を示す領域も混在しています。そういう状況で交感神経が活性化される,あるいは血中カテコラミンが増えてくると,その不均一性が非常に強調されます。ある部分はまったく活動電位が変わらないけれど,ある部分は極端に短くなる。隣同士の細胞で数十ミリセカンドくらいの不応期の差が起きているのです。それによって局所的リエントリーが発生することが心室細動を起こす本態だと考えられますが,β遮断薬を投与すると,除神経が起きている領域ではカテコラミンに対する反応が抑えられ,denervation super- sensitivityの領域では不応期の過剰な短縮が抑えられ,全体の不応期が延びて電気的には安定化します。そうしたβ遮断薬の抗不整脈作用が突然死の予防にいちばん大きく関与しているのではないかと思います。

横山 そうしたβ遮断薬の作用を臨床で評価する方法はあるのでしょうか。

小川 それは大変難しいですね。除神経の領域だけはMIBG心筋シンチグラフィで評価できますが,不応期の不均一性を評価するのは大変難しいです。たとえば,QT dispersionで非侵襲的に体表から評価する方法はありますが,心室細動を起こすような狭い範囲の不均一性を検出する方法は残念ながらありません。

 amiodaroneには除神経改善作用はあまりないのですか。

小川 amiodaroneも不応期の不均一性をなくして,電気的に安定化させるということがいちばん大きな作用だと思います。amiodaroneはβ遮断薬の作用もありますが,むしろKチャネル遮断作用で不応期を延ばして安定化させるということだと思います。

半田 抗不整脈薬のsotalolはやはりβ遮断薬だけれども,これはどのように考えたらよいのですか。

小川 sotalolはpropranololの3割くらいの作用ですが,投与量はpropranololの3〜4倍です。持続性心室頻拍の発生を抑える効果はありますが,残念ながら突然死を改善したというデータはありません。ことsotalolに関しては,残念ながら作用が少ないと思います。


心房細動を間接的に起こさないようにする

小川 心房細動は心不全による心房圧上昇の結果として出てくることも多く,心房細動が起こることで心不全が悪化するという悪循環も生まれます。CIBIS IIのサブスタディでは,洞調律群でみられた死亡率の改善効果が心房細動群ではみられませんでした15)。DIAMOND-AFでも,心房細動がある例ほど死亡率が高い,生命予後が悪いということですので17),心房細動は心不全例の死亡率に対するリスクと考えてよいと思います。
 そこで心房細動を治療するために抗不整脈薬を使うとなると,Naチャネル遮断薬は心機能抑制作用がありますから,まず禁忌ですので,必然的にKチャネル遮断薬のamiodaroneを第一選択薬で使うことになります。
 ただ心房細動は,心不全があると年間半数例以上で再発するといわれていて,それに対してamiodaroneでは十分な効果が得られません。心不全例の心房細動をいかに予防できるかが大事なので,そういう意味でβ遮断薬は直接的に抗心房細動薬として使うというより,間接的に心機能をよくし,心房への負荷を減らすことで心房細動を起こさないようにするものとして使うということだと思います。

 心房細動例のほうが心不全の予後が悪いのは,頻脈によるものでしょうか。

小川 頻脈によって心機能はさらに悪化します。β遮断薬による徐脈化で,左室機能への悪影響を最小限度にとどめることも考えられます。

 もし徐拍効果が有効ならば,心房細動例にβ遮断薬を投与すると予後がよくなってもよいと思うのですが,必ずしもそうでないところが難しいと思います。

 β遮断薬は頻脈の人のほうが効きやすいのではないかという仮説があり,MUCHAのサブ解析では,心拍数(bpm)75未満と75以上に分けると,75以上のほうが有意差が出ていました。MOCHAでもやはり心拍数75以上のほうが,イベント発現率が有意に下がっています。心拍数が高い,つまり交感神経にドライブが掛かっている症例にはβ遮断薬がよいのかもしれません。

小川 そういう意味では,心房細動の場合と徐脈の場合とでは少し違いますね。心房細動がある症例にβ遮断薬がより有効であるということになれば同じ考え方でよいと思いますが,むしろ逆です。

 突然死は頻脈の症例のほうが多いのでしょうか。

小川 圧受容体反射感受性試験で自律神経の反応をみる方法がありますが,昇圧剤を投与した際の徐脈反応が低下している例で突然死が多いという報告があります。

 β遮断薬は確か長期に投与していると,圧反射感受性が改善します。それは確かに心室頻拍の抑制効果に関係しているということでしょう。

今後の慢性心不全治療

 最後に,今後の慢性心不全治療について,先生方のご意見をお聞かせください。

半田 われわれは心不全になった病態を一生懸命治療しようとしていますが,新しいACC/AHAやESCの慢性心不全のガイドライン18, 19)では,心不全を起こすような病態および病因をある段階でしっかりコントロールする,つまり予防ということに重点が置かれています。日本でもその点をきちんと整理して対応していく必要があるのではないかと思います。

小川 欧米のエビデンスは結局,あらゆる治療が始まったあとにβ遮断薬を使うというトライアルで,本当にβ遮断薬を第一選択薬として位置づけてよいのかどうかはまだ証明されていません。要するにACE阻害薬や利尿薬を使わない状況で,β遮断薬を使うとどうなるかということが証明できれば,これは第一選択薬としてよいのでしょうが,いまは通常の基礎治療をしても改善されない場合にβ遮断薬を使うという状況です。実際,使い方が煩雑で,専門家でないとなかなか使いづらい部分もありますが,今後はβ遮断薬をいかに早い段階から開始するかの指針を明らかにすべきではないでしょうか。

 いままでの経験からいうと,どうしても利尿薬,ACE阻害薬の上にβ遮断薬を乗せるほうが効果的なので,β遮断薬まで含めて第一選択になりつつあるのではないかと思いますがいかがでしょうか。

横山 私も堀先生の考えに近くて,β遮断薬は軽症から重症までの心不全に積極的に早期から使うべきだという考え方です。心不全の病態,予後を考えると,エビデンスのあるものは積極的に使うべきなのです。利尿薬は生命予後に対するデータはありませんが症状を改善するということで,まず利尿薬,そしてACE阻害薬。そして,禁忌でなければβ遮断薬はルーチンに使うべきだと私は思います。
 ただ,β遮断薬は全員に効くわけではなく,4割くらいの方はあまり効果が発揮されないので,その点は今後の残された課題だと思います。

 そうですね。現在,臨床試験では倫理的にACE阻害薬のあとでしかβ遮断薬を使えませんが,場合によってはβ遮断薬を先に使ったほうが効果的な症例があるかもしれません。それに対する答えは,今年9月に発表されるCARMENの結果で出てくる可能性が高いと思います。COPERNICUSによってβ遮断薬の適応がNYHA IV度にまで広がったということですから,われわれもいままで以上に積極的にβ遮断薬を慢性心不全に用いる方向に向かうことは間違いないと思います。

横山 いままでβ遮断薬は保険適応外で,しかも添付文書には心不全に禁忌と書いてあるなか,われわれは有効性を信じて慢性うっ血性心不全の患者さんに対してβ遮断薬を投与してきました。それがMUCHAの結果がきちんと評価されて,厚生労働省で心不全に対するβ遮断薬の適応,保険収載が認可されるということは,今後の本邦の心不全治療におけるβ遮断薬の位置づけを考える上では,大変重要な出来事だと思います。

 大変大事な時期を迎えていると思います。carvedilolが慢性心不全治療薬として適応が承認されますと,かなり一般に使われるようになりますので,投与にあたってはその意義と使用上のリスクについて十分に理解しておかなければなりません。その意味で,今日お話しいただいたことが読者の方々の参考になれば大変ありがたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

REFERENCES
1) Waagstein F, Hjalmarson A, Varnauskas E, et al. Effect of chronic beta-adrenergic receptor blockade in congestive cardiomyopathy. Br Heart J. 1975; 37: 1022-1036.
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