第6回CARDIOLOGY FRONTIER 2007
A臨床研究から得られた知見

Dr.Yoshikawa

交感神経受容体シグナルからみた β遮断薬の反応性とクラス・エフェクト

 
吉川 勉 慶應義塾大学医学部 循環器内科 准教授
 

 禁忌がなければ慢性心不全の全症例にβ遮断薬を使うべきと考えるが,導入して心機能が改善する症例とそれほど改善しない症例がある。

決定的なものがないβ遮断薬反応性の予測指標
  β遮断薬のレスポンダー,ノンレスポンダーを予測する指標については以前から検討が行われているが,決定的なものはない。β遮断薬投与前後で心筋生検を実施し,心筋内の遺伝子発現をRT−PCRでみたデータでは,レスポンダーで筋小胞体(SR)のCa2+−ATPaseの遺伝子発現が増加,βミオシン重鎖が減少した1)。プラセボ投与によりレスポンダーに同様の反応はないため,おそらくこれはβ遮断薬の直接作用ではないかと考えられる。しかし,これは事前にレスポンダーを予測する指標には必ずしもならない。

レスポンダー予測に有用な遺伝子多型
  次に浮上した指標が遺伝子多型である。米国Cincinnati大学で心不全患者の発症リスクを対照群と比較して検討したところ,遺伝子多型のうちα2受容体,その中でもα2c受容体の遺伝子多型が予測因子として浮上した2)。この遺伝子多型は322番目から325番目が欠失すると交感神経終末からノルエピネフリンがたくさん放出されるという型である。もうひとつのβ1受容体の389番目がグリシンからアルギニンになった型では活性型受容体になるといわれている。前述のα2c受容体は白人よりもアフリカ系アメリカ人に多い遺伝子多型であるといわれ,このα2c受容体の322番目から325番目が欠失した型で,なおかつβ1受容体の389番目がアルギニン/アルギニンになった型では,心不全の発症リスクが10倍にもなるといわれている。この型は交感神経活性が常に亢進しているため,そのことからも心不全発症における交感神経活性の重要性がうかがえる。
  β1受容体の389番目がアルギニン/アルギニンになった型とグリシン型にcarvedilolを投与して心機能の改善をで著明に左室駆出率(LVEF)が増加した(図1)
  α2c受容体の遺伝子多型について,bucindololを用いたBEST試験で興味深い解析が行われている。BEST試験ではアフリカ系アメリカ人にbucindololがあまり効果がないことが認められたが,α2c受容体の322番目から325番目が欠失した型はアフリカ系アメリカ人に多い遺伝子多型であり,同型で全死亡,心血管死がbucindololでむしろ増加する傾向があった(表1)。一方,α2c受容体が野生型では死亡率が減少した。またβ1受容体がアルギニン/アルギニンの型ではさらにbucindololが有効であることがわかった。
  以上のように欧米でいろいろな遺伝子多型に関するエビデンスが出てきたが,人種差が大きく,わが国の心不全にも適応できるかどうかについては不明である。

レスポンダー予測因子となるβ1受容体に対する自己抗体
  わが国の心不全では基礎心疾患として拡張型心筋症が相対的に多い。われわれは拡張型心筋症患者のうち約4割近くにβ1受容体に対する自己抗体が検出されることを明らかにした。β1受容体の第2細胞外ループに一致するペプチドをつくり,6ヵ月間家兎を免疫すると,心エ20コーでは求心性左室肥大を呈する。断面像でも内腔の狭小化と拡張障害を伴い,なおかつβ1受容体のアンカプリングを伴うことがわかった。
  このβ1受容体に対する自己抗体がin vitroでもたらす作用について,cAMPの産生に及ぼす影響を検討したところ,この自己抗体は用量依存的にcAMPの産生を増やし,いわゆるアゴニスト様作用があることがわかった4)
  実際に拡張型心筋症でこの自己抗体を有する患者と,自己抗体のない患者で心臓死や心不全死,突然死に及ぼす影響をKaplan−Meier法で検討したところ,心不全死には自己抗体の有無で差はないが,突然死が自己抗体を有する患者で多いことがわかった5)。Cox比例ハザード解析を行ったところ,自己抗体陽性が突然死の独立予測因子になることがわかった。この自己抗体は心室頻拍(VT)の発生と関連するが,自己抗体を有する患者についてハイリスクVTの予測因子を検討したところ,β遮断薬の使用がハイリスクVTの負の予測因子となることがわかった。これらの所見からβ1受容体に対する自己抗体を有する心不全患者ではβ遮断薬がより有効ではないかという仮説を立てた5)
  最近報告されたデータとして,β1受容体に対する自己抗体の有無で患者を分け,metoprolol投与によるLVEFの変化をみたものがある6)。自己抗体を有する群のほうが最終的なLVEFが有意に高かった。しかし,metoprololの最終到達量は自己抗体を有する患者のほうが圧倒的に多く,容易にβ遮断薬を導入できた症例であることから,本当に自己抗体の有無が修飾因子になっているかどうかはわからない。

β遮断薬の効果がより認められる自己抗体陽性例
  われわれは以前に行った安定慢性心不全患者(LVEF≦40%)に対するmetoprololないしcarvedilolの無作為試験について,ベースラインでの自己抗体陽性患者20例,陰性患者62例に分けて解析を行った。ベースラインのLVEFはそれぞれ25%,29%と,自己抗体陽性例のほうがわずかにLVEFが悪かった。過去のドイツのデータでも,自己抗体陽性例は陰性例よりもLVEFが悪い症例が多いといわれている。薬剤については,ほぼ全例にACE阻害薬,ARBが投与されていて,自己抗体陽性例にspironolactoneが多く投与されている以外,両群に差はなかった。
  心エコーで左室拡張末期径(LVEDD)の変化をみたところ,自己抗体陽性例は陰性例に比べてβ遮断薬によりLVEDDがより低下した。ベースラインの値で標準化すると有意差は消えるが,p=0.057と差のある傾向は残った。左室収縮末期径(LVESD)は,自己抗体陽性例は陰性例に比べてより低下した。ベースラインの値で標準化しても,自己抗体陽性例のほうが陰性例に比べてLVESDの減少が顕著であった。
  LVEFは自己抗体陽性例と陰性例のいずれも改善した。しかしLVEF改善度は,自己抗体陽性例のほうが陰性例に比べて,より大であることがわかった(図2)
  BNPは自己抗体陽性例のほうが陰性例に比べてより低下する傾向があったが,有意差は認められなかった(図3)。患者背景に若干差があるため,ベースラインのBNPの中央値をとり,中央値より高い群と低い群に分けて検討したところ,低値群では自己抗体の有無で儉VEFに差はないが,高値群では自己抗体陽性例のほうが陰性例に比べて儉VEFが有意に高く,心機能がより改善することがわかった。BNPの変化度は,BNP低値群では自己抗体の有無で差はないが,高値群では自己抗体陽性例のほうが陰性例に比べてBNPがより低下することがわかった。
  全体から虚血性心不全を除いて拡張型心筋症患者についてのみ検討した。β遮断薬により儉VEFは自己抗体陽性例のほうが陰性例に比べてより改善することがわかった。BNPについても自己抗体陽性例のほうが陰性例に比べて低下する傾向があることがわかった。

自己抗体陽性例でβ遮断薬が有効な理由
  なぜ自己抗体陽性例でβ遮断薬がより効果があるのかを検討するために,最大運動負荷を行い,血中ノルエピネフリンの増加度に対する心拍数の増加度(僣R/儕NE)をとりβ受容体の反応性をみた。ベースラインのβ受容体反応性は自己抗体陽性例のほうが陰性例に比べ高かった。自己抗体陽性例ではβ受容体が活性化していることがわかった。
  β遮断薬を投与すると陽性例,陰性例ともにこの指標(僣R/儕NE)が低下するが,ANOVA検定により陽性例のほうがこの指標が低下することがわかった。したがって自己抗体陽性例でβ遮断薬が有効である機序として,自己抗体陽性例で活性化した受容体に対してより強い抗アドレナリン作用が発揮されることがうかがえる。
  metoprololとcarvedilolで比較検討したところ,metoprolol投与群では自己抗体の有無による儉VEFの差はないが,carvedilol投与群では自己抗体陽性例でLVEFが改善しやすいという結果が得られた。ベースラインのLVEFに差があるため,ベースラインのLVEFで標準化して同じような検討をしても,carvedilol投与群では,自己抗体陽性例は陰性例に比べてLVEFが改善しやすいことがわかった。
  自己抗体陽性例でβ遮断薬,特にcarvedilolが有効であるという結果が得られたが,389番目がアルギニンになった活性型β1受容体でも同様の結果が報告されている7)。FRET(fluorescence resonance emission transfer)システムという蛍光でβ受容体の活性化をみる方法により,bisoprolol,metoprolol,carvedilolで,グリシン型とアルギニン型でβ受容体の活性化に及ぼす影響が比較検討された。bisoprolol,metoprololでは遺伝子多型による受容体活性への影響に差はなかったが,carvedilolでは活性型受容体のほうが非活性型受容体に比べてβ受容体活性をより強く抑制することがわかった(図4)。cAMPについても,metoprolol,bisoprololの場合2種類の受容体で差がないが,carvedilolで活性型受容体に強い抑制効果がみられた。前述の自己抗体陽性例では,内因性アゴニスト様作用によって受容体が常に活性化されており,そのような活性型受容体を有する患者にβ遮断薬,特にcarvedilolが強く作用する可能性があると理解される。

まとめ
  収縮機能障害を主徴とする慢性心不全患者には,禁忌がない限りβ遮断薬を試みるべきである。レスポンダー予測にはβ1受容体389番目の遺伝子多型が有用であることが欧米のデータからわかっているが,本邦の心不全患者については不明である。これについてはわが国のエビデンスづくりが急務である。またわが国では心不全の原因として拡張型心筋症による心不全が相対的に多く,β1受容体第2細胞外ループに対する自己抗体の存在が新たなレスポンダー予測因子となることが示された。

REFERENCES

1)Lowes BD, et al. N Engl J Med. 2002; 346: 1357−1365.

2)Small KM, et al. N Engl J Med. 2002; 347: 1135−1142.

3)Mialet Perez J, et al. Nat Med. 2003; 9: 1300−1305.

4)Iwata M, et al. Circ Res. 2001; 88: 578−586.

5)Iwata M, et al. J Am Coll Cardiol. 2001; 37: 418−424.

6)Miao GB, et al. Eur J Clin Invest. 2006; 36: 614−620.

7)Rochais F, et al. J Clin Invest. 2007; 117: 229−235.

 

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