拡張機能不全の診断と治療

 Vasanらが1999年に報告した結果では,心不全患者の予後は,収縮不全よりも拡張不全で良好であることが明らかにされているが,ミネソタのOlmstedで行われたpopulation basedの研究では,収縮不全と拡張不全の予後は同等であると報告されている。

 Vasanらは,拡張不全の重要性について「No time to relax」すなわち,心不全患者を治療する際に,収縮機能が正常に保たれているからといって安心してはならない。拡張不全は心不全患者の30〜50%に認められ,予後は収縮不全と同等であることから,拡張不全の有無を診断して予防・治療を始めなければいけないと強調している。拡張不全の診断基準として,うっ血性心不全の確実な証拠とともに,左室収縮機能が正常で,拡張機能不全があれば拡張不全と確定診断されるが,それ以外にも心不全症状を呈している場合,収縮機能が正常であれば,できるだけ拡張不全が存在していると診断することを提唱している(表2)。

表2 拡張不全の診断基準(文献2より改変引用)

Definite
Probable
Possible
うっ血性心不全の
確実な証拠 
(+)
(+)
(+)
左室収縮機能正常の
客観的証拠
心不全発症の72時間以内の左室駆出率0.5以上
心不全発症の72時間以内の左室駆出率0.5以上
心不全発症時ではないが
左室駆出率0.5以上
左室拡張機能不全の
客観的証拠
(+)
(−)
(−)

弁膜症,肺性心,一時的な容量負荷,非心臓性の原因などを除外する必要がある。

 心臓カテーテルにより圧と容積の関係から,拡張不全の客観的証拠は得られるが,すべての心不全患者に対して心臓カテーテル検査を施行することは困難である。そこで,ドプラー心エコー法による僧帽弁での左室流入血流速波形のE波(左室拡張早期)とA波(心房収縮期)の関係(E/A)から評価が可能である。拡張機能が低下するとE波が小さくなり,A波が大きくなる。E/Aはよい指標であるが,拡張不全が進行するとpseudo-normalization(偽正常化)現象が起こる。これを鑑別するためには肺静脈血流速波形の観察が必要になってくる。心エコーを行う際にはEFだけではなく,僧帽弁,肺静脈の血流パターンから,拡張不全の有無を積極的に診断していくことが望ましいと考えられる(図3)。

図3 左室流入血流速波形と肺静脈血流速波形の関係
E:拡張早期ピーク血流波,A:心房収縮期ピーク血流波,S:左室収縮期の左房内への流入血流,
D:拡張後期に左房圧が肺静脈圧を下回ることで生じる血流,PVA:左房から肺静脈への血液の逆流

 拡張機能不全の治療として,(1)利尿薬・亜硝酸薬は,左室充満圧を低下させるが,過度の低下は心拍出量が減少して低血圧が起こるため,調節しながら投与することが重要である。同時に,(2)原因,誘因を取り除く。特に拡張不全では高血圧の頻度が高いことから頻脈や血圧の管理,さらに虚血性心疾患が拡張不全の原因となる場合もあるため虚血の改善が重要である。(3)β-blocker,Ca拮抗薬は,拡張機能を改善すると期待されるが,いまだ臨床的有用性は証明されておらず,(4)収縮不全で用いられるACE阻害薬の有効性についても不明である。

 現在,ペリンドプリルを用いたPEP-CHF試験や,カンデサルタンを用いたCHARM試験など,いくつかの大規模臨床試験が進行中であり,これらの試験結果が待たれるところである。拡張不全に対する薬物治療の有効性については,まだ不明の点が多いため患者の状態を慎重に観察しながら治療していくことが重要であろう。

文献

1)  Tsutsui H, et al. Mortality and readmission of hospitalized patients with congestive heart failure and preserved versus depressed systolic function. Am J Cardiol 2001; 88(5): 530-3.

2)  Vasan RS, et al. Defining diastolic heart failure: a call for standardized diagnostic criteria. Circulation 2000; 101: 2118-21.