5  治療目標に応じた薬剤選択-ミルリノンの効果的な使い方 国立循環器病センター心臓血管内科医長 安村良男(現  国立病院大阪医療センター循環器科部長)

 急性心不全の病態は非常に多彩であるため,まず正確な診断が求められる。次に,病態を正しく把握し,治療目標を明確にした上で薬剤を選択し,さらに補助循環の適応を考慮する(表5-1)。

 その際,低心拍出量とうっ血の両者を伴うForrester IV度(図3-7a)の治療はしばしば議論となるところである。ほとんどは血管拡張薬中心の治療で十分であり,強心薬の必要性は10%弱ではないかとの報告もある。

表5-1 急性心不全の治療指針-診断から薬剤選択へ

問診,理学的所見,緊急採血
心エコー図,X線写真    
心不全の診断
病態の把握
治療の目的
薬剤選択

拡張不全
腎不全
肺 炎
 
左室不全
右室不全

容量負荷
圧負荷

頻 脈
低心拍出量
ショック
 
血行動態の改善
 強 心
 血管拡張
 利 尿
 脈拍数調節


循環維持
神経体液性因子改善
   

図3-7
カルペリチドの有効性に関する指標の検討


(a)Forrester分類

病型に応じた薬剤の選択と強心薬の適応

 臨床的に強心薬の必要性を判断する際に,左右どちらの心不全が前面に出ているかを見極めることも参考になる(表5-2)。左心不全と両心不全の場合,血圧はある程度維持されていることが多く,薬物治療の基本は血管拡張薬と利尿薬である。一方,右心不全症状,ビリルビン高値,あるいは心エコー図検査でIVC(下大静脈径)の拡張,また浮腫や体重の増加があれば,右心不全優位と考えられる。

 この場合は,CO(心拍出量)低下や体重増加がみられ,血管拡張薬のみでは不十分な状況となり,治療は困難になる。そこで,強心薬であるカテコラミン製剤やPDEIII阻害薬の適応を考慮する必要性が生じる。

 強心薬にはそれぞれ特徴がある。したがって,先の病型と合わせ,治療目標に応じた薬剤選択を考慮することが重要である。まず,塩酸ドパミンは血圧を上げる作用を基本に使用を考えるべきであり,低用量での利尿効果については,心不全例では疑問視されている。

 また,塩酸ドブタミンはCO増加作用に優れ,さらにPDEIII阻害薬ミルリノンは前負荷軽減作用とCO増加作用を持つ(表5-3)。

 ミルリノンの効果を左心系と右心系に分けて考えてみると,まず左心系で左室拡張末期圧やPCWP(肺動脈楔入圧)が高く,肺高血圧の状態を示す場合には,左室前・後負荷を下げるとともに,収縮性を増強し,COを増加させる。また,右心室のCOは後負荷に依存することから,ミルリノンの投与により右心室の後負荷,すなわち肺高血圧を改善させることが重要である(図5-1)。

 一方,慢性的な肺高血圧に陥り,右心室に長期間負荷がかかって重症化すると,右心室の収縮性を増加させることも必要となってくる。その場合は,ミルリノン+塩酸ドブタミン併用が有効であることが多い(図5-1)。

表5-2 急性心不全の病型による病態の分類

  左心不全 両心不全 右心不全
血液分布(末梢→中枢) 
右─左相互作用
   低右心機能
MAP
CO
CPi
Δ体重
血管拡張薬,利尿薬    強心薬の併用
MAP:平均大動脈圧 CO:心拍出量
CPi=CI×MAP 
CPi:cardiac power index CI:心係数
(Eur J Heart Fail 2002:4:227-34)

表5-3 各種強心薬の特徴

  収縮性 前負荷 後負荷  意 義
塩酸ドパミン  血圧を上げる
塩酸ドブタミン  心拍出量を増やす
ミルリノン  拡張末期圧を下げ,
 心拍出量を増やす

図5-1 PDEIII阻害薬が心臓に及ぼす作用

ミルリノンの特徴と効果的な使用法

 一方,同じ薬剤でも,病因によっては効果が異なる場合もある。ミルリノン0.5μg/kg/min・48時間持続点滴投与した海外の成績では,虚血性心不全群では血圧低下や不整脈などがみられたが,非虚血性群ではそのような副作用は少なかった(図5-2)。このデータは海外の投与量であるが,病態を十分に解析し,ミルリノンの投与量に十分注意すれば,副作用を回避できる可能性が高い。

 また,β遮断薬投与下におけるミルリノンと塩酸ドブタミンの心機能改善効果にも差がみられている。収縮性の指標としてFS(心室内径短縮率)を用いた検討では,酒石酸メトプロロール慢性投与下において,ミルリノン群ではβ遮断薬投与の有無にかかわらず反応がみられたのに対し,塩酸ドブタミン群ではβ遮断薬非投与下では反応を示したものの,β遮断薬投与下では反応性の低下がみられた(J Am Coll Cardiol 1997;30:992-6,図5-3)。

 私たちも重症例に対して,β遮断薬投与下にミルリノンを投与している。

図5-2 病因別にみたミルリノンの効果


(J Am Coll Cardiol 2003;41:997-1003)

図5-3 β遮断薬慢性投与下でのミルリノンの有効性


(J Am Coll Cardiol 1997;30:992-6)
右心不全メインの重症例に対するミルリノンの効果
症 例
 54歳女性,家族性DCM(拡張型心筋症)

現病歴
 31歳時,PND(発作性夜間呼吸困難)が出現したため,近医で加療した。その後はNYHA I度で推移し,47歳時NYHA IIs度,49歳時NYHA IIm度と次第に悪化した。54歳時(2002年8月),過労を契機に近医に入院した。12月に右心不全症状が悪化し,2003年2月,精査加療のため当センターに入院。5月,DOE(労作時呼吸困難)増悪,10月,PND,食欲低下,浮腫が出現したため入院。

入院時所見
 ● 血圧90/52mmHg,HR(心拍数)90beats/min
 ● pH 7.47,PO2(酸素分圧)90 Torr,PCO2(二酸化炭素分圧)33 Torr
 ● LVDd(左室拡張末期径)71mm,FS 8%,MR(僧帽弁逆流)III度,TR(三尖弁逆流)II-III度,ΔP(圧較差)60mmHg
 ● IVC20mm,血漿BNP濃度308pg/mL,総Bil 2.2mg/dL,肝2横指触知

治療経過
 肺高血圧症状が強く,IVCも増大していたため,ミルリノン0.25μg/kg/min持続点滴投与を開始した。血行動態は改善し,ACE阻害薬を投与したが,咳が出現したためAII受容体拮抗薬ロサルタンに変更した。

 この時,急速な血圧低下がみられたため,塩酸ドパミン+塩酸ドブタミンにより血圧の上昇を図った。また,β遮断薬の導入を試みたが,心不全が増悪したため断念した。そこで,僧帽弁形成術施行後にβ遮断薬を導入したところ,良好な経過をたどり,退院した(図5-4)。

考 察
 本症例は右心不全が前面に出た重症心不全の典型であり,臨床でも非常に治療に難渋する場合が多い。

 心機能低下例において,ACE阻害薬やAII受容体拮抗薬は,稀ではあるが急激な血圧低下をきたすことがある。本例では,塩酸ドパミン+塩酸ドブタミンにより血圧上昇が図られた。また,β遮断薬を導入できないDCM例の中には,非常に強いMRを示すものもみられる。本例では,僧帽弁形成術を施行することにより,β遮断薬の導入が可能になった。

 このように,β遮断薬不忍容例では僧帽弁形成術後に導入が可能となることがある。
 急性心不全治療の基本概念としては,患者の症状緩和が先決であり,利尿はあとからでも得られればよい(図5-5)。

 しかし,急性期に神経体液性因子を遮断することが,果たして本当に慢性期の予後改善につながるのか,あるいはPDEIII阻害薬とカルペリチドでは,急性期を脱した症例の予後はどちらが良好か,というような問題解決のためには,今後,臨床試験によるevidenceが必要である。

図5-4 ミルリノン+塩酸ドブタミン併用によるβ遮断薬導入例

図5-5 急性心不全の治療目標


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