3  血管拡張薬はどこまで有効か-より効果的な薬剤選択のために 東京女子医科大学循環器内科学 梶本克也

 急性心不全または慢性心不全の急性増悪の治療に際しては,自覚症状,身体所見,および体血圧,HR(心拍数)などから,心不全の病態を評価する。その上で,まず保存的治療を開始し,それによっても症状が改善しない場合は薬物療法を行い,さらに補助循環へと進めていく(図3-1)。

 薬物治療に当たっては,血管拡張など心血行動態への作用バランスなども考慮する(図3-2)。

 具体的には,血圧が低く,尿量増加が必要な場合は,塩酸ドパミンを使用する。また,β遮断薬導入下で,ある程度血圧が保たれていれば,PDEIII阻害薬が有用である(Int J Cardiol 2001;81:141-9,図3-3)。

 ESC(欧州心臓病学会)2003では,PDEIII阻害薬レボシメンダンに関して,うっ血性心不全,急性心筋梗塞の予後改善効果が報告されている(Lancet 2002;360:196-202,図3-4)。レボシメンダンは本邦未発売であるが,そのかわりに日本では静注(注射薬)PDEIII阻害薬が使用できる(表3-1)。同じPDEIII阻害薬のミルリノンと塩酸オルプリノンでは血行動態への作用は異なることが知られている(臨床と研究 1994;71:798-813,1992;69:3984-96,図3-5)。私たちは現在,急性肺水腫を認める患者に対し,SBP(収縮期血圧)の高い順に,カルペリチド,塩酸オルプリノン,ミルリノン,塩酸ドブタミン,塩酸ドパミンを使用する方針をとっているが,その境界は明らかではない。そこで,急性心不全または慢性心不全の急性増悪症例について,病態に応じて,より効果的な薬剤選択のために,まず血管拡張薬がどこまで有効であるかを検討した。

図3-1 急性心不全または慢性心不全の急性増悪に対する基本的な治療

図3-2
心不全治療薬の血管拡張作用バランス

図3-3
β遮断薬投与下での有効性     
―ミルリノンと塩酸ドブタミンの比較


(Int J Cardiol 2001;81:141-9)
 

図3-4
PDEIII阻害薬レボシメンダン*の予後改善効果

LIDO(Levosimendan Infusion versus Dobutamine) study


(Lancet 2002;360:196-202)

表3-1 PDEIII阻害薬の特徴

1 陽性変力作用(β受容体を介さない)
 ・ β受容体ダウンレギュレーション(カテコラミン製剤抵抗性)症例でも有効
 ・ β遮断薬との併用が可能
 ・ カテコラミン製剤との併用により相乗効果を発揮
2 血管拡張作用
 ・ 後負荷の軽減,末梢循環を改善(末梢血管拡張作用)
 ・ 肺うっ血改善効果が高い(肺高血圧症例に有効)
 ・ 心筋酸素需給バランスの改善が可能

図3-5 PDEIII阻害薬とフォルスコリン製剤の作用


(臨床と研究 1994;71:798-813,1992;69:3984-96)
カルペリチド単剤の有効性を示す指標の検討
対 象
 ●急性心不全または慢性心不全の急性増悪例
 (Forrester II,IV度,n=18)
 ●患者選択基準 急性肺水腫,β遮断薬導入予定
 ●患者除外基準 心原性ショック,急性虚血の関与,慢性腎不全,維持透析

方 法図3-6
 ■ カルペリチド単剤(0.025-0.075 μg/kg/min)投与後,24-72時間の血行動態と入院時血漿BNP濃度を測定
 ■ カルペリチド有効性の指標
・NYHA IVからIII度以下への改善
・肺動脈楔入圧の改善
・COの改善
・肺動脈圧の改善など
 ■ カルペリチド単剤で改善しない場合
 (1)カルペリチド+塩酸ドブタミン併用
 (2)ミルリノンに変更
 (3)塩酸オルプリノンに変更

結 果
 ■ 平均65±12歳,男:女=12:6,DCM(拡張型心筋症):HHD(高血圧性心疾患):VHD(弁膜症)=11:3:4
 ■ 平均LVEF(左室駆出率)27±8%,平均RVEF(右室駆出率)52±18%
 ■ 入院時:血圧130/71mmHg,肺動脈圧53/26mmHg,CI(心係数)2.2±0.5L/min/m2,血漿BNP濃度803±646pg/mL
 ■ 治療成績:カルペリチド単剤で改善した18例中12例はサルタン(AII受容体拮抗薬)に変更して退院。残りの6例は,カルペリチド+塩酸ドブタミン併用3例,ミルリノンに変更2例,塩酸オルプリノンに変更1例で,いずれも改善
 ■ カルペリチド単剤の有効性を示唆するカットオフ値
・Forrester分類II度(図3-7a
・SBP>120mmHg(図3-7b
・脈圧/収縮期血圧比>42%(図3-7c

図3-6
カルペリチド単剤の薬剤プロトコール


(東京女子医科大学循環器内科)

図3-7
カルペリチドの有効性に関する指標の検討


(a)Forrester分類

 

図3-7
カルペリチドの有効性に関する指標の検討


(b)収縮期血圧と右房圧

図3-7
カルペリチドの有効性に関する指標の検討


(c)脈圧/収縮期血圧と右房圧

病態改善効果の指標からみた治療指針案
 以上のような検討により,急性心原性肺水腫に対しては,まず血圧がある程度保たれている場合はカルペリチド単剤でも有効であり,次にカルペリチド単剤で無効な場合は塩酸ドブタミンかPDEIII阻害薬の併用を必要とし,さらに,血圧が低くCVP(中心静脈圧)が高い場合は早期からカテコラミン製剤の使用を検討する必要があると考えられた(図3-8)。

 一方,腎機能とSBPを考慮した場合,まずCr(クレアチニン)≧2.0mg/dL,SBP<90mmHgの場合は塩酸ドブタミン(+塩酸ドパミン)を使用し,次にCr<2.0mg/dLかつSBP≧120mmHgの場合はカルペリチド(+塩酸ドブタミン)を検討し,さらに90≦ SBP<120mmHgの場合はPDEIII阻害薬に変更する必要があると考えられた(図3-9)。

 さらに,PDEIII阻害薬単剤で症状が改善しない慢性心不全の急性増悪や低CO患者の場合は,基本的には血圧をみながらPDEIII阻害薬を静注投与し,そこへ塩酸コルホルシンダロパートまたは塩酸ドブタミンを少量併用している(図3-10)。

 LVEF<40%で肺水腫を伴う急性心不全に対する薬剤選択については,ESC2003においても血管拡張薬使用のカットオフ値として,SBP>120-130mmHg程度とするデータが報告されている。このような指標も参考にしながら,薬剤を使い分けていくことが必要であろう(図3-11)。

図3-8
収縮期血圧・中心静脈圧を指標とした場合の
急性心原性肺水腫の治療指針(案)


(東京女子医科大学循環器内科)

図3-9
腎機能・収縮期血圧を指標とした場合の
肺水腫を伴う急性心不全の治療指針(案)


(東京女子医科大学循環器内科)
 

図3-10
PDEIII阻害薬導入プロトコール
-PDEIII阻害薬で症状の改善を認めない症例


(東京女子医科大学循環器内科)

図3-11
血行動態に応じた薬剤選択
(LVEF<40%の場合)


(東京女子医科大学循環器内科)

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